マーケターズロード山口有希子 #01

実力が評価されるフェアな場所を探して――パナソニックコネクト山口有希子のキャリア序章

 パナソニック コネクトの取締役 兼 CMOとして、経営とマーケティングの両面から事業を牽引する山口有希子氏。日本IBMやシスコシステムズ、ヤフージャパンなど複数の企業で、マーケティングの戦略立案から実行、組織マネジメントに至るまで幅広い経験を積んできた。

 転職先企業の突然の買収や思いがけないチャンスの到来など、キャリアには予測不能な出来事がつきものだ。そうした変化をどう乗り越え、成果へとつなげてきたのか。

 トップマーケターの歩みに迫る連載「マーケターズ・ロード」では、山口氏がマーケティングの現場で重ねてきた実践と学びから、成功のヒントを探る。第1回(全4回)では、山口氏が「フェアな場所」を求めて歩んだキャリアの原点と、20代に培った働く覚悟に迫る。
 
パナソニック コネクト 取締役 執行役員 SVP CMO DEI推進・カルチャー&マインド改革推進担当
山口有希子

 パナソニックの企業向けソリューションビジネスを担うパナソニック コネクト(売上高約1兆2千億円、社員数約3万人)の 取締役 兼 デザイン&マーケティング部門責任者として、ビジネスと企業カルチャーの改革に取り組む。 また、DEI推進担当役員として、ジェンダーダイバーシティ等の取り組みを強力に推進している。日本IBM、シスコシステムズ、ヤフージャパン(現LINEヤフー)など、国内外の複数の企業にてマーケティング部門管理職を歴任。
 

フェアに評価される場所を求めて


―― 山口さんは現在、パナソニック コネクトで経営とマーケティングに携わっておられますが、これまでどのような考えをもってキャリアを歩んできたのでしょうか。

 私のキャリアを振り返ると、その前半はフェアな場所を探す旅で、後半はフェアな場所をつくる旅になっているなと思います。特に20代のときは、自分が能力を存分に発揮できる場所を探していましたね。

 「私」という人を知ってもらうためには、まず育った環境からお話したほうがいいかなと思います。私は熊本県出身で、まさに九州らしい「亭主関白」という家庭で育ちました。女子が「大学に行きたい」と言っても、許されたのは地元の国立大学だけ。そうじゃなければ、「就職しなさい」という風土でした。

 そうした環境に、私は昔から疑問を持つことが多くありました。お転婆だと言われていましたし、たぶん変わった子だったのでしょう。幼稚園小学校の頃から「何で?」と思うことがたくさんあって、何度も繰り返し聞いたり、意見したりすると、「女、子どもは意見を言うな」と言われて、おかしいという思いが募りました。その後、地元の熊本大学に進学しましたが、実家からは少し離れていたので、アパートを借りて、学費も生活費も奨学金やバイト代をやりくりしながら、基本的に全部自分で賄っていましたね。

 そのような環境があったから、就職先は実力がフェアに評価される場所であることを絶対条件に、総合職を探しました。当時、女性の総合職の採用枠は男性と比べて非常に少なかったので、どんなに成績が良くても周りの男子よりチャンスが少ないことにも疑問を感じていました。そうして、純粋に成績で評価してくれるフェアな場所として、リクルートコスモスへの入社を決めました。
  

―― なぜリクルートコスモスだったのですか。

 リクルートコスモスは不動産業を営んでいたのですが、当時はまだバブルの匂いがあったので、非常に業績が良かったんです。20代で外車に乗り、マンションを購入したと就職情報誌で話している先輩たちを見て、働くべきは不動産業だと思いました(笑)。

 それなのに入社した途端にバブルが弾け、リクルートグループ内に転籍することになりました。転籍したのは、就職情報誌の広告営業。新人はお客さまを自分で開拓していくしかないので、多い時で1日100件ほど飛び込み営業をしていました。

 私の担当エリアは神田駿河台のあたりでしたが、同じエリアに同様の広告を売っている会社が10社ほどあり、同じ価格の同じ商品を販売していました。その中で、差別化するためには、自分自身を売り込むしかなくて。そこで基本的な営業スキルを学んだ気がします。

 広告営業の仕事はとてもハードでした。目標があれば、それを必ず達成しなければと思って頑張ってしまうタイプだったので、毎日朝から夜遅くまで働いていました。そうしたら身体に不調をきたすようになって、このままではまずい、もう辞めようと思いました。

 ただ、「できないから辞める」というのは嫌だったので、優秀な営業を表彰する賞を四半期2回連続で獲得したら、辞めようという目標を自分で決めました。そして、それが達成できたので、退職したんです。
 

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