「広告維新伝」 広告人生43年とインターネット広告30年史 #06
広告維新伝【第6回】キリンビール担当として実現した、アナログ時代のPOE施策
2026/05/22
- 前回の記事:
- 広告維新伝【第5回】シルバニアファミリー誕生の裏側
広告業界の激動の半世紀を、現場の第一線で見つめ続けてきた横山隆治氏が綴る「広告維新伝」。マス広告の黄金期からインターネット広告の勃興、そしてAIがつくる新時代までを、「ネット広告事始め」篇~「横山青年立志」篇~「上場と闘争」篇~「知の継承」篇の大きく4篇(予定)に分けて振り返る。現在の広告界の礎を築いた伝説的人物たちとの間で交わされた会話や、急成長を遂げた業界内での熾烈な競争、試行錯誤の現場で生まれた数々のエピソードなど、広告の裏側と人間ドラマを鮮やかに描き出す。
本連載は、横山氏の43年の広告人生と、30年にわたるネット広告の歩みを通して、日本の広告の「始まり」と「進化」を追体験する試み。これからの業界をつくり上げていく現代のアドパーソン・マーケティングパーソンの仕事にも活きる学び・気づきに満ちた軌跡を辿る。
旭通信社での営業から、広告業界でのキャリアをスタートした横山氏。今回も、「アドパーソン」の枠に収まらない横山氏が「どうつくられたか?」を、多種多様なエピソードを通じて振り返り、現代のアドパーソン・マーケターが自身の“可動域”=仕事の幅を広げていくためのヒントを探る。
本連載は、横山氏の43年の広告人生と、30年にわたるネット広告の歩みを通して、日本の広告の「始まり」と「進化」を追体験する試み。これからの業界をつくり上げていく現代のアドパーソン・マーケティングパーソンの仕事にも活きる学び・気づきに満ちた軌跡を辿る。
旭通信社での営業から、広告業界でのキャリアをスタートした横山氏。今回も、「アドパーソン」の枠に収まらない横山氏が「どうつくられたか?」を、多種多様なエピソードを通じて振り返り、現代のアドパーソン・マーケターが自身の“可動域”=仕事の幅を広げていくためのヒントを探る。
「トリプルメディアマーケティング」で本当に提案したかったこと
2010年に『トリプルメディアマーケティング ソーシャルメディア、自社メディア、広告の連携戦略』(発行元:インプレス)という本を書いた。この当時、すでにソーシャルメディアの台頭で、企業のマーケティングメディアは多様になり、そもそも整理する必要があった。
言ってみればホワイトボードに「漏れなく被りなく」書き出して、何が使えるか/使えないかを検討するためだ。ペイド(Paid)=「買うメディア」、オウンド(Owned)=「所有するメディア」、アーンド(Earned)=「(評判を)得るメディア」と3つに整理すると、抽出しやすかった。
このPOEを3つのメディアとして、Web広告研究会(現・デジタルマーケティング研究機構)のセミナーで登壇したのがこの出版の前の年だったろうか。実は「トリプルメディア」と名付けたのはWeb研のメンバーだ。僕はPOEという概念があることをお知らせしたまでだった。
この『トリプルメディアマーケティング』という本は「組織論」でもあった。POEという3つの輪があって、その重なりにピンを打ってバラバラにならないようにしようということを提唱したのだ。この3つのメディアを俯瞰して見る役員が必要であること。それに伴った組織編成をすることを論じていた。
しかし世の中的には、POEは組織分掌に使われた。僕としては、そこは意に反していた。 今までの組織はそのままで、POEを割り振っただけになり、当然POEをすべて俯瞰する役員はいない。組織分掌に使われてどんどん線を引き、区分してしまうのは実によくない。POEは有機的に連動するものだ。役割を分けることにばかり目が行くのは、本来の考え方と違う。連携することを阻害する。
また、こうした企業の思考を、広告代理店側も助長する。博報堂のA氏が、POEに対してマス・リアル・デジタルとマトリックスで9つの箱をつくり、その中を細かく分離することを推奨する。彼らは線を引くのが本当に好きだ。
この頃、徐々に日本でもCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)を位置づけていこうという議論が出てきた。欧米でのCMOの活躍も伝わってきた。ただ、日本ではそもそも「マーケティング」という定義があやふやだ。広告販促のことをマーケティングと認識している企業も多い。それこそ、CEOがCMOを兼務するとかしないといけない。言ってみれば、経営とはマーケティングである。
僕は『トリプルメディアマーケティング』で、企業のマーケティングメディアをすべて管理する役割として、CMO(チーフ・メディア・オフィサー)を提案したかった。
キリンビールの若年層向け商品で実現した、アナログ時代のPOE施策
そんな2010年から遡ること22年、1988年にキリンビールさんを担当していた僕に、あるミッションが来る。1986年に施行された男女雇用機会均等法、その元年にキリンビールの総合職として採用された女性3名が、飲料の商品開発チームをつくることになった。僕に与えられたミッションは、彼女たちがつくる商品をプロモーションすることだった。
その飲料ブランドは、首都圏のコンビニ向け商材として開発されたもの。ターゲットは女子中高生で、ソニー・クリエイティブプロダクツの「ローントビー」という猫のキャラクターを使った瓶入りジュース。フレーバーは、アプリコットとピンクグレープフルーツの2種だ。
開発者3人組の思い入れが強く、最初のプロモーション会議から熱のこもったものになった。とはいえ、入社間もない彼女たちなので、タレントは誰を使いたいとか、要望はまだ大学生のノリ。僕はうんうんと聞きながら、内心「そんな予算ないっつーの」と思いつつ、どう説得していくか悩んでいた。一方、この商品はキリンさんの飲料としては非常にターゲットが絞り込まれているので、プロモーションもエッジの立った面白いことができそうだと思ってもいた。
さてどうしたものか。テレビCMを使う予算はない。ラジオCMなら使えるかも。でも、ラジオCMで流れても、そのまま消え去っていくだけだろう。僕は、せっかくのキャラクター商品であること、つまりラベルに可愛いキャラクターが載っていることを起点に考えることにした。「ラベルもメディアだよな・・・それなら、ラベルが発信する何かをつくろう」。
そこで、ラベルに電話番号を刷り込んで、毎週更新される「占い」や「おまじない」が聴けるテレフォンソフトをつくることにした。これがまた自転車操業でたいへんだったが、回線数をどんどん増やさないと繋がらないくらい電話がかかってきた。逆に「話し中」が多いと、「みんなが掛けている」と思ってもらえるので、それ自体がプロモーションをドライブすることになる。
画像はイメージ ※生成AIで作成これだけでは面白くないので、午後8時から9時までは留守番電話方式でいろんなコメントを録音できるようにした。それを選抜して30秒に編集し、90秒のラジオCMのなかに入れて放送するという手作業感満載の仕組みにした。
テレフォンソフトとラジオCMのナレーションは、三ツ矢雄二さんにお願いした。当時アニメ『タッチ』の主人公・上杉達也役の声優さんでも有名だった。ラジオCMはニッポン放送の『三宅裕司のヤングパラダイス』。「あのテレホンサービスに面白い話を吹き込むと、ヤングパラダイスでCMとして放送されるかもしれない」という話題はすぐに広がった。
この仕組みをPOEで解説すると、ラベルとテレフォンソフトはオウンドメディア、ラジオCMはペイドメディア、女子中高生のなかで広がる話題がアーンドメディアに当たる。

画像はイメージ ※生成AIで作成
実はこのキャンペーンのコアな対象者になったのは、想定していたよりもう少し若年の、小学校5・6年生の女の子だった。テレフォンサービスに録音してくれるので年齢が分かる。
これはその後、僕が「想定するターゲティングから、実証するターゲティングへ」と本に書いたことの、最初のきっかけになった。
アドパーソン、マーケターに必要なのは「アウトプットのイメージを想像する力」
首都圏の10代女性の間でブームになった「ローントビー」キャンペーンは、ヤングパラダイスに新しいリスナーを呼び込んで聴取率を上げたので、僕はニッポン放送から企画賞という賞をいただいた。この年は、優れたキャンペーン(というより「こんな仕掛けよくやったね」キャンペーン)として、キリンさんの宣伝部長が講演する際の題材もこの話ばかりだった。「あんな仕掛けたいへんだったでしょう?」とみんなに言われたが、実際本当にたいへんで、手作りそのものだった。今の人にとっては昔話になるが、当時はまだプッシュホンも普及しきっていなかった。協力してくれた電話設備屋がすごく面白がってくれて、ダイヤル式でも自動音声応答(分岐)ができるように一緒に試行錯誤した。
ダイヤル式の電話では、ダイヤルを回すと番号ごとに異なる音の波形が現れる。その波形をオシロスコープで観察し、さらに積分して面積を数値化すれば、どの番号を回したかが判別できる。これでプッシュホンと同じように、入力された番号に応じてコンテンツを分岐させていこうとトライした。しかし、0と9だったか、読み取り誤差が少しだけ許容範囲を超えて、この技術は日の目を見なかった。
後から考えれば、デジタルで簡単にできることをアナログ時代に試行錯誤した経験は、僕にとって貴重なものだったと思う。今では当たり前のことを、当たり前じゃない時代にやろうとしていた。しかも、それを面白がってやっていた。
そういうことが、今でもそこらじゅうに転がっているはずだ。なんでも興味をもってトライしてみるといい。AI時代は何がどうなったら面白いのか、それを想像する力が重要なんだと思う。アウトプットのイメージを想像する力があれば、生成AIがなんとかしてくれるんだから。
ただ、プロセスを試行錯誤することの楽しさがなくなるかもしれないのが、ちょっと残念だけれど。
さて、次回は、インフォシークでスタートしたDAC(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム)に話を戻そう。(つづく)




メルマガ登録















