マーケターズ・ロード 足立光 #04
「組織を動かすには、感情→結果→KPIの順番が重要」日本マクドナルドCMO足立光氏
2018/05/14
「当て続ける」ための、仕込み続ける努力
もちろん、私自身、若い頃からこれを実践できていたわけではありません。実は、P&G時代の初期に、“痛い”思いをして学んだことでした。西口(一希)をはじめ、近い年代のP&G出身者からはよく言われるのですが、P&G時代の初期、私は本当に嫌なやつだったんです(笑)。と言うのも、弁が立つほうだったことも災いして、ロジックで人を詰めながら動かそうとしてしまっていたんですね。
そんな私を見た社内のいろいろな人から、「ビジネスなのだから、ロジックはあって当たり前。人を動かすのは感情だよ」と嗜められました。
コンサルティング会社時代にも、同様のことを感じました。緻密にロジックを組み立てて提案をしても、クライアントから「ロジックはわかるけれど、そうは言ってもなあ……」と消極的な反応が返ってくることも少なくありません。
一方で、大したことのない内容でも、感情のこもったプレゼンが、クライアントのやる気を掻き立てることがあるのも事実なのです。提案内容が的確であることが重要なのは言うまでもありませんが、それ以上に「こいつのいうことなら、やってみるか」と感情的に納得してもらうことこそ重要なのだと痛感しました。
私はなぜだか、周りから「ヒットを連発している」「失敗知らず」と見られがちです。確かに、仕事運は良いほうだという自覚はあります。しかし、マーケティング施策の成功率は良くてせいぜい3割ですから、これまでには当然、失敗した事例もたくさんあります。大切なのは、そうした失敗をあまり気にしないことです。全体として成功していればいいと考えるようにしています。
それでも、できる限り施策の成功率を上げるための工夫があるとすれば、それは「仕込み続けること」だと思います。
日本マクドナルドでも、入社して1~2カ月のうちに、今後数年間での方針(何をどう変える、何を変えない)を概ね決定し、ある程度の修正はありましたが、基本その通りに実行してきました。
例えば、2018年3月に全国でスタートした「夜マック」(毎日17時から閉店までの時間帯にレギュラーメニューの定番バーガーを対象に、100円をプラスすることで“パティが倍になる”倍バーガー)のプロジェクトも、入社半年後の2016年春にはすでに秘密プロジェクトを立ち上げていました。
また、今でこそいろいろな施策が実行されていますが、当時は「ポケモンGO」しか無かった他社とのアライアンスをもっと拡大するために、「アライアンスチーム」を立ち上げたのも2016年7月です。
なぜそんな前から、実現するかどうかわからない施策のために手を打つのか。
言うまでもなく、施策の実現には時間がかかるからです。特に、自社や業界で成功例の無い施策や、他社とのコラボレーション企画は、相手先もあることですから、なかなかスムーズに進みませんし、プロジェクトには初期の立ち上げから全国展開まで、いろんなステージがあります。正直、立ち上げたプロジェクトの中で、全国展開までこぎつけられるのは2割にも満たないのが現実です。
しかし、常に前倒し、前倒しで、ある程度の数を仕込んでおかないと、ベストなタイミングでローンチさせることは難しいのです。目の前のことをやるのと並行して、2~3年後を見据えた施策を、時には会社に内緒で、いくつも仕込み続けていることが、施策を「当て続けている」と思われる要因と言えるのではないでしょうか。
このように、目の前のプロジェクトに懸命に取り組むことに力を注いでいるので、よく人から尋ねられる「今後の展望」のようなものは、実はあまり持ち合わせていません。これまでの転職も、人のご縁を含め、偶然の産物でしかないのです。
目の前のことに必死に向き合って、成果さえ出していれば、自然と新しい話が舞い込んできたり、予期せぬ展開があったりする。常に、そう信じ続けています。
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