マーケティングの現場から考える「5年後の実際」 #02
私が流行りの「One to Oneマーケティング」に抱いた違和感の正体 【LIFULL 菅野勇太】
2019/02/25
独りよがりなプレゼントで痛い経験
「彼女はこれが好きに違いない!今日のデートは完璧だ!」と、意中の相手の喜ぶ顔を想像してデートコースを考えて、サプライズのプレゼントまで用意したのはいいものの、振り返れば自己満足だったという“痛い”経験はないだろうか。男性側は気づいていないままの可能性があるが、女性側は思い当たることが多いだろう。「いや、こんな“大きなぬいぐるみ”をもらっても困るんだけど…」と。
相手が本当に何を欲しているかを考えるより先に、自分がどうしたいかが勝るとこうなる。私も学生の頃を思い返すと、顔から火が出るほどに恥ずかしいエピソードが満載だ。
これをマーケティングコミュニケーション設計に当てはめてみよう。
ひとつの例として、カスタマージャーニー的なシナリオ設計がある。ターゲットの気持ちに寄り添って洞察を進めていたつもりでも、課題に対する打ち手を考える段階に差し掛かると、これまでの文脈を無視して「個人的にどうしてもやりたかった施策があるんだよね~」という気持ちが出てくる。その欲に負けると前段階でターゲットに想いを馳せた時間が無駄に終わる。思いつき・思い込み・押し付けという、カスタマージャーニーの落とし穴だ。
「独りよがりなプレゼント」で失敗しないためには、どうしたらよいのだろうか。まずは相手に関する“ありとあらゆるデータ”の入手とその活用が大事だ。
データドリブンが解決の糸口になるか?
あらゆるデータを駆使してユーザーを理解して仮説の精度を高めることができれば、自分がどうしたいかという思いを引っ込めて、相手が何を待ち望んでいるかという真理に近づくことができる。近年データを使ってできないことはないほどに、環境が整備されてきた。Paid、Owned、Earnedメディアに代表される顧客接点のレスポンスデータ、第三者との連携によるインタレストデータ、IoTによるリアル行動データ、ロケーションデータ、決済データ、天気データ、その気になれば全てのデータをインテグレートできる。
想像していただきたい。思いつく限りのデータが全て連携された理想的なDMPを何か月も苦労して完成させた。これでユーザーを理解できる。さて、あなたはこのデータをどう活用し、どんな成果を期待するだろうか。
データ活用は、ユーザーの具体的なベネフィットに結びつく形でサービスとなり価値提供されている素晴らしい事例がある一方で、活用しきれず失敗に終わることも多々ある。一人ひとり違う心を巧みに射止めるような戦術に落とし込むことは実際には難易度が高く、結局は最大公約数的なプランに落ちつくか、自分の力量に合わない非現実的なプランになり果てることもよくある。
ビジネスの現場に落ちているデータは、思考停止に追いやられるほどに増殖し続けている。また、良い成果を生むかどうかは、言ってしまえばマーケターの腕次第。ものすごく優秀なタレントが揃っていれば話は別だが、DMPはただの箱であり、そこから何を取り出すかはその人の能力に依存する。人間の頭で仮説を立てたり検証したりする前提において、活用しきれず持て余すことが明白なDMPなど最初からつくってはいけない。DMP構築自体は、必ずしも成功が約束されたアプローチとは言えないのだ。
相手のデータを集めることにせっかく時間をかけたのに、それを活かすことなく無難なデートコースに逃げ込んでしまっては、大きな成果に繋がらない。
連載第1回で吐露したこと。それは「セグメント配信から脱出したいならば、CRM、MA(マーケティングオートメーション)の思想から脱出しなければならない」という問題提起。この問題はセグメント配信の裏面にあたるDMPの活用不全と繋がっていた。