マーケティングの現場から考える「5年後の実際」 #02

私が流行りの「One to Oneマーケティング」に抱いた違和感の正体 【LIFULL 菅野勇太】

問題に立ち向かう過程で見えてきたこと

 DMP活用の目的は様々だが、ここではOne to Oneの実現手段として取り上げたい。「特定のジャンルに興味関心があり」「サイトによく訪問する時間帯に」「ある行動をした」などの個別の条件をトリガーにメッセージを配信することは、その人の欲しい情報を欲しいタイミングで届けたことになるのだろうか。本当に、そう言い切れるのか。

 ここに私は現在のOne to One志向に潜む違和感があると考えている。その正体は、偶然の発見から見えてきた。

 2018年夏、私のチームである取り組みを開始した。LIFULL HOME'Sを利用したユーザーに対してメールでアンケートを送付し、サービス改善に役立てるというものだ。それはごく一般的な調査で、特別な取り組みというわけではない。アンケートでは表層の目的としての純粋な「サービス改善のための意見徴収」をするほか、LIFULL HOME'Sを通過した先の(我々には見えない)リアルな意思決定や行動、その結果に対する満足・不満足などの情報を取得している。

 そのデータを「その回答をした人」のLIFULL HOME'S内での過去の行動と付け合わせ、どのような違いがあるのかを見ようとする意図でいくつかの仕込みをしている。古典的な「アンケート」という体裁ながら、統計情報としてのデータ活用ではなく、「個客データ」としてのデータ活用を目指した点でユニークだ。


 この例で得られた知見は、別の機会があれば語ることとして、ここでは触れないが、私がまず驚いたのは回答率の高さだ。回答の質も良い。サービスの利用を終了している(大部分のユーザーは住み替え完了後、LIFULL HOME'Sを必要としない)、かつ何のインセンティブもないのに、毎日多くの回答が寄せられる。

 ユーザーは金銭的な報酬がなくても、自分の経験を誰かに伝えることで何かを得ようとしている。それは純粋にサービス改善への貢献心なのか、単に誰かに話して気分を晴らしたいだけなのかは分からない。ただ、その声にダイレクトかつリアルタイムに何らかの形で個別に回答を返すことができれば、きっと喜ばれるに違いないと思った。それは、思いもよらず新しいコンセプトを見出すための大きなキッカケとなった。

 多くの企業・サービスではサービス改善のためのアンケートを取得している。その貴重な意見の一つひとつにどう応えているのだろうか。取捨選択の対象として軽視していないだろうか。なぜユーザーはアンケートに答えてくれるか考えたことはあるだろうか。

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