マーケティングの現場から考える「5年後の実際」 #03

誤解や議論も多い「CRM」 AI時代に相応しい価値とは何か【LIFULL 菅野勇太】

前回の記事:
私が流行りの「One to Oneマーケティング」に抱いた違和感の正体 【LIFULL 菅野勇太】

私がCRMについて思うこと

 ネットでCRMブームについて検索すれば、90年代から始まる失敗の歴史が刺激的なワードとともに数多く出てくる。
 
  • CRMは費用対効果が見えない。
  • 導入したものの、顧客リストや問合せ管理DBとしてしか使われていない。
  • システム導入に全力を注いでしまい、一旦導入してしまえば利用者任せ。
  • 多方面からの要望を飲み込み続け、目的を見失ったシステムは改修不可能になった。
  • 導入後は放置されている。
  • CRMは7割、いや8割は失敗している。

 当時、CRMは「マーケティング=マスマーケティング」だった時代から、新しい時代への転換を象徴する手法として華々しく登場した。それは、大量消費の「ベターライフ」という夢が終わり、価値観が多様化・相対化する「マイベストライフ」への時代の幕開けを的確にとらえた手法としてブームになった。

 そして、その考え方は、概ね正しかった。

 しかし、CRMを導入すると売上が上がるという短絡的な期待は蔓延し、目的や指標が曖昧なまま導入して失敗するケースが多発する。今のMA(マーケティングオートメーション)ブーム、DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)ブーム、AIブームに通じる部分がある。

 私も、私なりに先人に敬意を表して、CRMの歴史を解釈したい。
 

「CRM1.0」から「CRM1.5」へと緩やかに進化

 「CRM1.0」の考え方は、自社の会員属性を可視化してヒエラルキーをつくり、属性に応じたオファーでロイヤリティを高める。要は「囲い込み」というコンセプトに収斂される。

 MAの登場で会員を捉える網の目が細かくなった。サイト訪問などの行動のトリガーとオファーするコンテンツの掛け算でシナリオをつくり、会員を「個客」と呼んで、個別対応感を演出する。今までよりもずっと忙しくなったユーザーのタイムシェアを奪うための策として、囲い込みの手前で「自分ごと化」する必要性が叫ばれた。

 広くCRMを捉え、狭く(Eメール配信+αという実態として)MAを捉えれば、MAの台頭は「CRM1.5」くらいではないか。実は、90年代から始まる「CRM1.0」的な思想からあまり進化していないが、真のOne to Oneを目指す上で、CRMの歴史観やMAという手段は役に立つと思っているし、その殻を破って進化した先で実現できると信じている。



 連載第一回では、人間の頭でコミュニケーションシナリオを考え入力する前提のCRM・MAのシステム思想から脱却できなければ、真のOne to Oneの実現はない、という問題を提議した。続く第二回では、問題解決のヒントは「対話」にあるという方向性に行き着く。傾聴し、ユーザーの本質的な要望を引き出し、即時回答する。この対話を不特定多数のユーザーと同時に行う。そのためのマーケティングのシステムをいかに構築するか、という課題設定だ。向き合うテーマとしては一貫してBtoC、特に数十万、数百万という顧客を抱えているCRMを問題に取り上げる。

 前置きが長くなったが、今回は、効果的なコミュニケーションの自動化をいかに実現するかという課題解決のために、どのようなイシューが有効か深掘りしたい。

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