マーケティングの現場から考える「5年後の実際」 #03
誤解や議論も多い「CRM」 AI時代に相応しい価値とは何か【LIFULL 菅野勇太】
双方向コミュニケーションの可能性
もう一つは、双方向性のコミュニケーションだ。ヒアリングによって顧客の本質的な要望を能動的に引き出し、応じる。このプロセスの自動化が行われる世界。ここでいう「本質的な要望」とは何か。具体例を挙げる。当社で運営するリアル店舗『LIFULL HOME'S 住まいの窓口』では、来店したユーザーとLIFULLのアドバイザーとで日々以下のようなやりとりが行われる。
とある夫婦
「○○エリアで注文住宅を建てたい」
「広い庭がほしい」
「キッチンから庭までを見渡せるように設計された家がいい」
「そもそも私たちの予算でできますか?」
この要望の実現は、予算内では難しい。そこで本質的な要望を汲み取っていく。
欲しいのは「父と子が広々とコミュニケーションできる空間」であり、庭である必要はない。欲しいのは「父と子が駆け回って遊ぶ様子をキッチンから温かく眺める幸せな私(母)」というシーンであり、注文住宅である必要はない。
とすると、中古一戸建てや中古マンションを購入してリノベーションすることでこれを実現する選択肢が出てくる。注文住宅に拘らなければ、土地から探すコストを抑え、子供が大きくなった後や巣立った後の間取り改修に資金を回すことができるかもしれない。
こういった提案をする。
優秀なアドバイザーは、ユーザーから発せられる表層的な要望から本質的な要望を汲み取り、丁寧に解釈の確認作業を行いながら、ユーザーの夢や理想の実現に導いていく。
『住まいの窓口』で価値提供されているプロセスの実行は、今のところ人に代わる手段が存在しない。
話を戻すと、大量の顧客を抱える場合において、双方向のコミュニケーションの自動化という課題は、優秀なアドバイザーをAIで再現できるか?或いは、どこまで機械がアドバイザーに近づけるのか?というイシューに向かう。
しかし、テキストや音声の対話ログから優秀なアドバイザーをAIで再現するというコンセプトは、すぐに破綻することになる。(後編につづく)
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