Adobe Summit 2019 #01

Adobe Summitに見るこれからのマーケティング【奥谷孝司 現地レポート】

CXM(Customer Experience Management)の実現に必要な要素


 初日のキーノートセッションを通じて、アドビが提唱するCXMの実現、マーケティングの中心にデジタルを据えていく上での重要な要素が見えてきた。まず第1に重要なことは、CMOとCIOの融合と連携だ。

 CMOとCIOの連携の重要性は、本セッションの事業会社からの事例紹介にも多く見受けられた。テクノロジーサイドとマーケティングサイドの両方から登壇者がいることが当たり前になり、プレゼンテーションの内容に厚みをもたらしていた。

 筆者もこの連携の重要性についてはここ5年くらい提唱を続けている。前職時代に仕事がしやすかった理由の一つとして、システム管掌役員がWEB事業部も見ていた時期もあったことが挙げられる。アドビのツール導入と検討には、まさに両方のCレベルの協議が求められる。その連携においてCEO、経営陣へのデジタルトランスフォーメーションへの理解促進をすすめなくてはならない。

 キーノートセッションでも、INTUITという会計ソフト会社の事例紹介でCIOが登壇し、データをいかにクリーンに受け渡すか、データの可視化と活用における民主化の重要性、CMO、CDOとの連携、組織のあり方についての話もあった。

 デジタルを中心に据えた経営戦略においてイノベーションとビジネスの革新スピードを落とさないためにも、Cレベルでのデジタル戦略推進が必要だ。そういう意味では、Adobe Summitへの参加者もCレベル、できればCEOもこの場にきて、多くの事例、トップ企業の経営者が自らの口で熱く語る臨場感を味わってもらいたい。 Cレベルで顧客体験設計を考えることができる場をもつことが大切だと痛感する。

 次に重要なのは、いかにデータを活用したマーケティングの実現をMarketing とTechnologyの融合から行い、マーケティングの可視化を実現するかということだ。多くのセッションにおいてCMO、CDOがデジタルトランスフォーメーションにおいて重要なこととして、Measureable=計測可能性を挙げている。マーケティングの計測可能性はもちろんKPIにつながる。しかし、彼らのトークからMeasureableの意味がマーケティング仮説の構築と実証に力点を置いていることが垣間見える。もちろんマス広告の効果もMeasurableだが、Digitalにおける計測可能性において重要なことは、ある程度自ら実施するマーケティング施策において定量の仮説、Measureを持つことがやりやすい点が挙げられる。

 結果だけみてMeasureしている限りにおいてはDigitalの重要性は薄いし、マス広告の結果を後追いしたほうがマーケティング効果も高いということになるだろう。効果の大小に関係なく、仮説を持ったKPI・Measureを事前に持ち、ある程度予測をして事を進める事ができるのがDigital Marketingの良さであり、重要なポイントである。結果の数字合わせではなく、スピードを持って定量的仮説を実証することの大切さを感じることができた。

 3点目は、Content Velocityという言葉の重要性だ。この言葉も本サミットを通じて多く見聞きした。アドビのHPを調べてみるとこの言葉の定義として、「より多くのコンテンツを迅速に作り出し、適切なターゲットに届け、パフォーマンスの結果につなげること」と呼んでいます。

 この視点はまさに現代の顧客体験を象徴している。詳細は次回に譲るが、Accent Groupというオーストラリア最大のフットウエアーリテイラーでCDOを務めるMark Tepersonの自社のオムニチャネル戦略の解説においてContent Velocityの重要性が熱く語られていた。

 「VMDを変えるのと、facebook adを変えるのでは時間軸が違う」「今のお客さまがオンラインとオフラインを行き来する中で、顧客とのコミュニケーションタッチポイントをオンラインで埋めるには今の3−5倍のコンテンツが必要ではないか」と同氏はいう。

 このスピード感に対する危機感と現実味を帯びた発言は、現代のマーケターがデジタル活用において重要な視点でもある。店舗のコンテンツリニューアルにスピード感が必要ないということではないが、Frictionlessが進むカスタマージャーニーにおいて、すぐにそのブランドタッチポイントに地理的距離に関係なく到達できてしまう今の世の中。そのスピード感は明らかに店舗での顧客体験とは違う。

 さらに彼は、顧客のカスタマージャーニーにおいて、「人の流れはもちろん店舗にも年間何十万人と来訪するが、それ以上にWebサイトに人が来る」と解説する。この言葉がどの程度リアルの小売業を中心にビジネスを行う企業が気づけているだろうか?今や「人の流れとして、Webを見る」ということも重要であり、看過してはならない。店舗はExperienceセンター、WebサイトやデジタルタッチポイントはDiscoveryセンターであるという解説も行い、お互いの違いと強みを組み合わせてオムニチャネル戦略を構築している。これからの時代に求められるContent Velocity。このスピード感をコンテンツ製作からマルチチャネルでのデリバリーを実現しなくては真のCXMには到達できない。このためにもAdobe Experience Cloudが重要になってくるのであろう。



 ここまでアドビ製品がもたらすマーケティングの進化と発展の可能性を解説してきた。最後にアドビへの提言があるとすれば、まだまだアドビの力を使いこなせていない企業が少なくないこと、リアルとネットの融合にむけたテクノロジー活用事例は、まだまだリアルにおける体験設計に置いては未完成なものが多かったことが挙げられる。

 もちろん各企業の事業戦略に基づいたアドビ製品の個別最適化があるべき姿ではあるが、アドビ自身がもっと顧客体験の現場に入り込んで、各クライアントの顧客の理解、真のCustomer Successの提供を目的とした伴走型のコンサルティングサービスをパートナー企業との連携でさらに強化してもらいたい。まだまだアメリカで見た夢のような世界の実現は遠い。しかし、実現は不可能ではないだろう。そこに一歩でも近づく、企業が世界はもちろん日本でも生まれるためのサポートのさらなる強化にも期待したい。

 そして、Adobe Experience Cloudがあるのであれば、ぜひAdobe Experience REALもつくってほしい。この言葉に筆者は、アドビが考えるデジタルドリブンな店舗フォーマットを提供して、そこから新しいリアルにおける顧客体験づくりの実験や、ネットとの融合を生み出す優れたリアルの場の設計にも挑戦してもらいたいという願いを込めている。この実現はさらにハードルが高いだろうが、従来の店舗設計からは生まれない優れたCXMの実現ができるのはアドビのような異業種、プラットフォーム提供者からの視点がリアルの買物体験に加わることが重要だからだ。華やかなラスベガスでのイベントも悪くないが、ひっそりとでも良いので、最新のテクノロジーを活用した店舗フォーマットをいつの日かAdobe Summitで体験できることを期待している。

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