顧客基点の「ソーシャルメディア戦略」 #01
ソーシャルメディアは担当者の個性を披露する場ではない、大事なのは握手をするような距離感【風間公太】
「握手をするような距離感」顧客との距離感の定め方
企業アカウント運用において、顧客との距離感を定めることは、ソーシャルメディア戦略を決める重要なポイントの一つとなる。
前述のカジュアルな運用スタイルのアカウントは、例えるならば初対面でいきなり肩を組んで飲みに誘うような、とても近い距離感で顧客と接している。筆者も前職の無印良品で2009年にTwitterアカウントを開設した際には、顧客との距離感について随分と悩んだ。まだ日本国内では他社事例も少なかったが、手探りで運用する過程でたどり着いたのが、「握手をするくらいの距離感」だった。
無印良品のブランドイメージを鑑みると、顧客と友だちのように接する距離感は似合わない。一方で、プレスリリースのような形式的な文体では、顧客も企業もフラットな存在であるソーシャルメディアでの最大の成果を期待できない。抽象的な表現ではあるが「握手をするくらいの距離感」を念頭に置くことで、自ずと文体や顧客との接し方の「型」が見えてきた。
また、無印良品は著名なデザイナーが商品デザインを担当した場合も、それを声高に伝えたりはしない、アノニマス(匿名性)を大切にするブランドだ。当時は、いま以上にアカウント運用に於いては担当者の個性や個人を出すことが必要だと言われることが多かったが、ここでもブランド文脈に沿って、風間が担当していると一人称で語ることはあえて避けた。しかしながら、アカウントの向こう側に人の存在、「人感」を感じてもらえるような対応を心がけることで、機械的では無く、人間味が伝わるようなアカウント像を築くことができた。
もう一つ、距離感を定める際に気にかけたいのが、「ファン」という言葉の解釈だ。特定の企業やブランドに対する熱量の高い顧客を「ファン」とも呼ぶが、このファンは、アイドルや有名人の「ファン」とは違うことも理解しておかなければならない。後者のファンであれば、対象者のことを四六時中考え続けていることも十分ある。ただ、前者のファンがアイドルのファンと同じように企業のことを考え続けていると想像するのには無理がある。
「自社のファンは、こちらが想像するほど自社のことを考えてはいない」くらいに思っておいたほうが、運用担当者が勘違いして間違った方向に進んでしまうことの抑制にもつながるだろう。さらに、「自社のファンは、こちらが想像するほど自社のことを考えてはいない」と意識することは、ソーシャルメディアでの投稿コンテンツを考える上でも大きなヒントになるが、それについては次回以降に記したい。
こういった企業の背景や文脈も加味して顧客との距離感を定めることが、アカウントだけが独り歩きすることなく、企業活動に即した形でのソーシャルメディア運用になっていく。