マーケティングの現場から考える「5年後の実際」 #05
【提言】 次世代マーケターに求められる5つのスキル
③作家性による統合スキル
社会インパクトドリブンという目的志向になればなるほど、具現化手段として取り得る選択肢は無数に広がり、テクノロジーの進化がその拡張に拍車をかけている。「あれもこれも技術的にはできます」という誘惑に負けず、有限なリソースを何に充てるべきか、絞りに絞って実行しなければならない。そのためには何が必要だろうか?ブレないビジョンを描く力と作家性だ。サービスやプロダクトの根幹となる、「ビジョン」や「パーパス」。その背後にある企業の「創業の原体験」「企業文化」「アイデンティティ」。つまり「らしさ」そのものが研ぎ澄ませされているということ。そういったブレない世界観を描き出し、相応しい手段を選択する。これは今までもこれからも変わらない。
もう一つは「作家性」による統合スキルだ。作家性とは、自身の強い思想を作品の細部までこだわり抜いて反映することだ。ビジョンに根差したマーケティング全体のシナリオを一つの小説のように独創的な視点から書き下ろし、映画監督のように枝葉の表現の隅々まで細かく指示を出し、一貫したものとして具現化するスキル。「らしさ」だけでは大きすぎて機能しない場合は特に重要になる。
最新のテクノロジーを携える際は、出来ることと出来ないことの境目が常に不確実で、職種間の役割分担も曖昧になる。マーケティングの定義は様々だが、消費者を理解し価値を届ける全過程とした場合、マーケターは脚本家兼プロデューサーとなって常に現場でデザイナーやエンジニアとコミュニケーションを取り、リアルタイムに細部まで、最後まで統合していく役割を担う必要がある。
自ら書き下ろしたシナリオを信じ、それを拠り所にして不確実性の高い意思決定の連続をやり切る。そうすることで定型化も分業化もままならない先鋭的なプロジェクトは、霧散することなく完遂することができる。
逆に作家性のない個人やチームは、小さな意思決定が出来ず、無限の手段に溺れて失敗してしまう。まず初めに症状として現れるのは、ABテスト依存症だ。個人の主観に依存しない客観的な判断の元で着実に前進できる一方、頼り過ぎると遅々として進まなくなる。
次に、カレーシチュー症候群(と勝手に呼んでいる)。不確実性が高ければ高いほど、多くの有識者の見解に頼りたくなる。多角的な意見は死角を減らすことができる一方、10人10通りの意見を聞き入れすぎて、カレーのようなシチューのような玉虫色のスープにならないように注意が必要だ。