マーケティングの現場から考える「5年後の実際」 #06

LINEは、CRMの何を変えるのか? 自由に旅できるオープンワールドな「顧客体験」の世界へ

LINEをCRMとして活用するために


 アドテクやDMPをこよなく愛し、もちろんCRMもデータドリブンを大前提として取り組んできた私であるが、LINEを開始してまもなく、旧時代に戻ったかのような感覚に陥った。そこから知恵を絞った。

 プロモーションからCRMへの流れをつくることが難しいならば、自社のOwnedメディアからLINEに新規登録してもらい、その瞬間に出来るだけ多くのデータを紐付けることが常套手段になる。定型の実装方法がサポートされているわけではないため、それなりの開発力が求められることが難点ではある。

 LINE上で提供するサービスの利便性そのものが「友だち追加」の動機になっていることが理想であり、そこに魅力を感じながら自らのコスト(時間・手間)をかけて繋がったユーザーのロイヤリティは高い。

 当社のサービスの一例を紹介しよう。LIFULL HOME'Sに掲載されている新築分譲マンションの詳細ページから、LINEで物件の更新情報を受け取るための登録を行うことで、価格や間取りの更新情報、モデルルームの見学予約の開始情報などをタイムリーにLINEで受け取ることができる。



 新築分譲マンションは、工事の着工前から取引開始時期などの予告広告を開始でき、その後は徐々に価格などの情報が提供され、完成前から販売開始できる特殊なマーケットである。

 購入検討者は、時間に余裕をもって比較検討を進めることができる一方、お目当ての物件の更新情報を常にチェックしておかなければならない。この「物件の更新情報のチェック」という面倒なプロセスをLINEを使うことで省くことが出来るという具体的なベネフィットを用意して、CRMへの入り口をつくった施策だ。
 

LINEならではのCRMとは


 OwnedメディアからのLINE登録が上手くいったのならば、そこからはLINEならではの“対話”を使って、友だちとの距離を縮めるための文脈をつくっていく必要がある。

 そこで、チャットボットが重要な意味を持ってくる。

 何年か前のチャットボットと言えば、FAQ機能を思い浮かべる方も多いだろう。フリーダイヤルに電話した時に、何の問合せかを振るいにかけるために番号をプッシュするアレと、WEBの「よくある問合せ」リンク集を組み合わせたような存在だ。

 しかし私の中でチャットボットの存在感は、どんどん大きくなっている。チャットボットが果たす役割は、今までのFAQといった”受け身”の機能ではなく、企業のアイデンティティをベースにアセットをフル活用し、横断的に顧客の課題を解決する”能動”サービスなのだ。



 先行している企業は、チャットボットの価値を「業務効率化」から「アップセルツール」へと再評価している。

 LINE公式アカウント『ユニクロ IQ』をよく見ていただきたい。LINEトーク画面上でチャットボットと対話しながら、商品情報を中心にコーディネートの提案や、店舗の在庫案内なども同時に進行していくのだ。

 その顧客体験は、さながら店舗スタッフの接客そのもの。これを実現している要素として大きいのは、個々のメッセージとセットで送られてくる小さな選択肢、「クイックリプライ」という機能だ。これを最大限に活用することで、ユーザーは縦横無尽に、かつ最短距離で自分の要望を叶えることができる。

 ユーザーは「こう動いて欲しい」という企業側の用意した道筋を進む必要がなく、自由になる。RPGゲームに例えると、順序よく進行するストーリーに身を任せるノベル型ではなく、広大な世界を自由に旅するオープンワールド型と言えよう。

 話は少し逸れるが、サービスに関わるマーケターの能力評価において、これまではいかに複雑で大規模なプロダクトを設計できるかが、一つの指標だった。しかしチャットボットによるサービス開発は、規模(開発工数)という点では大したことではない。

 百貨店の総合コンシェルジュの脳内にあるような、人と人との心地よいトークスクリプト設計に裏打ちされたロイヤリティマネジメントを実施していくようなスキルが求められ、その品質にしっかりと目を向けてマーケターを評価していくことが、LINEをCRMとして機能させるために必要となる。

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