顧客基点の「ソーシャルメディア戦略」 #07

「撮影禁止」ばかりに、していませんか? SNSで語ってもらう準備をしよう

自社への言及を意図的に増やすには?


 「語ってもらう」という考え方自体は決して目新しいものではなく、書籍『僕らはSNSでモノを買う』の著者でもある飯髙悠太さんも、独自のフレームワーク「ULSAS」で、起点となるユーザー発信コンテンツの重要性について言及している。

 だが、実際に企業SNS運用担当者になると、どうしても語る(発信する)ことに意識が向きすぎてしまい、語ってもらうことにまで気が回らない(あるいは手が回らない)現状が多いだろう。

 それでは、例えばリアルな場を有する企業ならば、来店/来場者に語ってもらうために何ができるか考えてみよう。
 
森美術館「塩田千春展:魂がふるえる」より(筆者撮影)

 これまでにも何度かご紹介した森美術館では、館内の複数箇所に上記のような案内を設置して来場者のSNS投稿を促している。

 最近では同様の案内を設置する企業もだいぶ増えてきたように感じるが、写真撮影OKであることや、使用してもらいたいハッシュタグの掲示は、最低限実施したい準備の一つだ。

 同館でも「撮影OKであることを何度も何度も伝える必要がある」(出典:洞田貫 晋一朗『シェアする美術 森美術館のSNSマーケティング戦略』)と、その必要性を強く説いているが、このような掲示の目的として、「美術館は撮影禁止だ」という来場者の固定観念を和らげるためにも重要であると述べている。

 企業側としては控えめでマナーが良い顧客が多いことは喜ばしいが、「館内/店内が撮影禁止である」という認識が顧客の固定観念ならば、せっかくその場から拡げてほしい情報も空間内に閉じたままで終わってしまう。

 掲載する情報もわかりやすく整理され、直感的に「撮影OK」「SNS投稿」などの行動が喚起される森美術館の案内は、参考にしたい事例の一つだ。

 こういった「撮影禁止」の固定観念は小売業でも共通する。若干古い事例で恐縮だが、「写真撮影OK」を積極的に伝えたことが来店客/売り上げ増につながった、筆者の前職である無印良品の2012年のクリスマスキャンペーンを紹介しよう。

 顔が写り込むことによる個人情報の観点もあるが、小売業の店舗内も撮影禁止が一般的だ。スマホの普及の誰もがカメラマンである現在でも、店舗内でシャッター音が響くと、なんとも言えない緊張感が漂う。

 しかし、SNSでの情報拡散も設計に組み込んだ展示イベントなどを実施する際には、店舗スタッフや店内放送で写真撮影OKを案内するのでも良いが、ここぞという撮影スポットでの「写真撮影OK+共通ハッシュタグ」の掲示が、SNSでの流通量を格段に増加させる発端となる。
 
2012年 無印良品 有楽町「MUJI HOME MADE」より

 この無印良品のクリスマスキャンペーンでも、意図的な撮影OKの掲示が功を奏し、約1ヶ月間で5000を超えるSNS投稿が生まれ、前年の3倍を超える対象商品の売り上げ結果、そして、子どもたちを中心に多くの来店者の笑顔を生み出す、深く記憶に残る施策となった。

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