マーケティングの現場から考える「5年後の実際」 #07

あなたは「ナラティヴ」という概念を、マーケティング文脈で説明できますか?

ナラティヴな時代だからこそ、ブランドのストーリーが重要に


 2日目のキーノートは、ディノス・セシール CECOの石川森生氏を聞き手に、オルビス 代表取締役社長の小林琢磨氏が登壇。オルビスの誕生から成熟期、停滞期を経て、現在推し進められている新ブランドによる改革まで惜しみなく語られた。
 
ダイレクトアジェンダ キーノート。オルビス 代表取締役社長の小林琢磨氏(左)、ディノス・セシール CECOの石川森生氏(右)。

 オルビスはバブル経済の真っ只中に生まれ、当時市場を席巻していたプレイヤーに対して明確なチャレンジャーポジションを取った。バブル期の売り方は広告や商品パッケージなどの装いがどんどん豪華に盛られゆく「プラスの論理」がセオリーだったことに対し、オルビスは本質的に必要な価値のみ追求する「マイナスの理論」を貫いた。

 商品パッケージが質素であっても、成分がシンプルであっても、化粧品として本来必要な要素以外を削ぎ落とし、本質的な価値を提供しようとする信念が結果として消費者に支持された。このとき、オルビスというブランドのフィロソフィーが構築された。

 その後、成熟期を迎えたオルビスは、売上を保ちたいというプレッシャーから過剰な値引き体質に侵食されるなど、次第にブランドのフィロソフィーをも見失う事態に陥る。

 「小手先のテクニックをやっても、自分たちの価値観が戦術に伝わっていないと消費者に共感されない」

 小林社長はこう語る。戦術に落とし込む手前で、フィロソフィーと戦略の融合、そして組織改革が必要だった。大混乱を覚悟で販売チャネルによる縦割り組織を解体し、戦略と執行の機能別組織への改革をも断行した。そうして生まれた新生オルビスの象徴商品である「ORBISU(オルビス ユー)」は、オルビスの歴史の中でも異例のヒット商品となる。

 小手先のストーリーテリングでは消費者に感づかれてしまう。だからこそ、ブランドのフィロソフィーとしてのストーリーはより重要になる。このセッションから受け取ったメッセージには非常に胸を打たれた。
 

ナラティヴとは、外部環境そのもの


 オルビスの例が教えてくれたことは「原点回帰の重要性」ではない。新しい時代への適応だ。SNSを前提とする時代に、他社でウケたことの焼き増しなど表層のテクニックを取り入れるだけでは上手くいかない(むしろ離反されてしまう)。

 ごまかしが効かず、主観性が自由に語られるナラティヴな外部環境へ身を投じるということは、そのブランドが為すべき意味を問われる覚悟がなければいけない。

 ナラティヴとはもはや現代の外部環境そのものであり、同時に内部環境の見直しを迫る。戦う舞台が根底から変われば、企業もダイナミックに変わらなければ生き残れない。

 次回は、ナラティヴな変化に対応するための鍵は何か。私が「ダイレクトアジェンダ 2020」の別のセッションで紹介した事例も踏まえ、さらに理解を深めたい。
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