顧客基点の「ソーシャルメディア戦略」 #10
SNS無期限禁止は、お客さんとの対話を遮断する表明である
なぜ小売業はSNSと相性が良いのか
日本相撲協会は力士に対してSNS無期限禁止を継続したそうだが、相撲協会に限らず、SNSに恐怖心や警戒心を抱いている方たちは職種や年齢に関係なく、まだまだ数多くいらっしゃる。
筆者も企業SNS支援したり、運用担当者向けの勉強会の場などで、「Twitterは炎上しますよね」「フォロワーとのやり取りは炎上しそうで怖いです」と、それなりな頻度で相談される。
成功事例よりも、炎上と呼ばれるネガティブ事例の方が記憶に残りやすかったり、「炎上対策」をビジネスとしている方たちが声高に「炎上炎上」と叫んだりしているので、「SNSでの対話は炎上と紙一重」という印象が擦り込まれているようで残念だが、筆者に限らず、小売業のSNS担当の方たちにとっては、いささか奇妙な光景にも映るだろう。
日本で企業SNSの本格運用が始まったのは2009年。各社が試行錯誤を重ねる中、若干手前味噌的な話になってしまって恐縮だが、当時注目されていたアカウントの業種は小売業が圧倒的に多かった。
筆者はこの時代のSNS黎明期を「資本力ではなく人間力の時代」と位置付けている。他業種よりも小売業のSNSが抜きん出た存在となった要因の一つは、積極的にマス広告を実施出来るような潤沢なマーケティング予算を有する小売業が少なく、良くも悪くも人(担当者)の力に頼らざるを得ない状況だったことにある。
SNS内の広告メニューが今ほど充実していなかった背景もあり、マスメディア中心の情報発信を行なっていた企業は、SNSの世界で自らの存在を伝えることにだいぶ苦労されたのではと想像する。
もうひとつ、特に実店舗を持つ小売業は、当然のことであるが普段の業務として「接客」を行なっている。実はこの点もメーカーなどの顧客との直接的な対面接点を日常的に持たない企業との大きな違いだ。小売業にとってはリアルの場でもSNSでも顧客と対話することは当たり前のことであり、SNSを特別な場ではなく、あくまでもリアルの場(店舗)の延長線上として捉えたことが成功要因だったと言える。
現在も「SNSで質問を受けたら返答するべきか」と聞かれることが多いが、リアルの場を基点とした企業ならば、自分が店舗で勤務をしていると想像した際に、店内で顧客に質問されて返答しない選択肢はあり得ない。
そんな小売業の立場から見ると、逃げようが無い実店舗の顧客接点の方がSNSよりもはるかに緊張感が高く、SNSでは無視(スルー)していれば鎮火するような内容でさえ実店舗では何らかの返答が求められる。拡散するかしないかの違いはあるが、店舗での炎上は日常茶飯事なのだ。こういった経験から、ある意味、炎上への耐性が培われていたことも、SNS黎明期に小売業アカウントが顧客との積極的な対話を繰り返し、SNSを活用した新たな顧客接点の形を発明し続けることが出来た理由だと言える。