顧客基点の「ソーシャルメディア戦略」 #10

SNS無期限禁止は、お客さんとの対話を遮断する表明である

SNSは顧客と企業の関係性をフラットにした


 ここでは、企業と顧客の双方向のやり取り、主に質問に対する返信の行為を「対話」と呼んで話を進めよう。

 SNSでの顧客との対話の醍醐味とも言える事例がこちらだ。
 
無印良品 公式ツイッターより

 この対話の価値を感じ取っていただけるだろうか。

 何の変哲も無い顧客と企業の対話であるが、その「何の変哲も無い」ことこそ大きな価値なのだ。

 KARTEのようなWebベースの接客ツールが存在しなかったSNS以前、Webでの双方向的な顧客と企業の接点は「お問い合わせ窓口」くらいしか無かった。顧客は上記のような質問を問い合わせ窓口にわざわざしない。電話、メールでもこれ然り。

 そう、問い合わせ窓口への質問は顧客にとって“わざわざ”する行為であり、そこには顧客と企業を一定の距離で隔てる何かが鎮座している。

 SNSの登場は、この障壁を一気に低くした。

 顧客は、メールアドレス、住所、電話番号などの個人情報入力の必要も無く、「@(アットマーク)+アカウント名」で容易に企業とつながることができるようになった。

 特にTwitterでは、アカウント自体に顧客なのか企業なのか、著名なのかそうでは無いのかなどでの違いは何も無い。その関係性は限りなくフラットだ。

 しかしながら、こういった対話も小売業の立場では決して珍しいやり取りでは無い。これもまた、実店舗で日々交わされている普通の接客である。そう、小売業にとってSNSでの対話は“接客の場の拡張”にすぎず、この事例からもなぜ小売業のSNS運用が顧客対応に秀でているのかを垣間見ることができる。

 このような何の変哲も無い対話を、顧客接点の拡張と捉えるか、意味の無いやり取りだと感じてしまうのか。

 あえて問い合わせ窓口に質問することが無い質問でも、SNSなら気軽に、手軽に話しかけることが出来る。そんな革新的な顧客と企業の新たな接点を、SNSは生み出したのだ。

 そして上記の対話には、もう一つ、顧客と企業のSNSならでは関係性を表す要点がある。よく見ていただくと、このフォロワーの方は無印良品だけで無く、東急ハンズにも@+アカウント名でメンションしている。

 現実の行動に例えると、同じショッピングモール内の両店舗を訪れ、両社の店員と会話するようなものだろう。

 「自転車が欲しい→普段よく買い物をする無印良品か東急ハンズの自転車が気になる→それなら両社に同時にTwitterで聞いてみよう」

 競合とも呼べる企業に同時に質問する行為は、従来の問い合わせ窓口型対話の発想ではあり得ないが、何の変哲も無い対話を、顧客が基点となり企業を横断してSNSを使って実施する。

 SNSが変えた顧客と企業の関係性の姿が、この対話に凝縮されている。

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