Adobe Summit 2020 レポート #01Sponsored

【奥谷孝司 解説】Adobe Summitに見るNew Normalな世界の顧客体験

 

5.    お客さまとの繋がり方 Privacyを考慮したデータ活用とDurable IDの重要性


 最後に、顧客IDの整備の重要性について言及しておきたい。今年のCESにおいても話題になったプライバシーの問題と、クッキーレス社会への対応がAdobe Summitにおいても多く語られていた。むしろ重要テーマであったと言えるくらいのセッション数は多かったように思う。

 筆者はこの領域のプロではないが、やはりデジタル時代の優れた顧客経験の設計において欠かせないのが、顧客データであり、その活用だ。しかし、近年のプライバシー保護の観点を考慮しない企業活動は非難の的となり、企業とお客さまとの関係を崩壊しかねないリスク案件でもある。このあたりの議論に対してマーケターは耳を塞ぎがちであるが、どう向き合うのか、対策を練るのかを経営陣、CLOと準備しておく必要性が高まってきている。

 いくつかのセッションのなかで感じたことだが、今後は組織内においてプライバシーに考慮したデータマネジメント体制構築に着手するべきであろう。ここで大切なのが、図4になるような組織内にデータの守りを行うデータ執事(Data Steward)の存在だ。
 
図4:データ執事の重要性
 
Adobe Summit セミナーより筆者作成

 攻めが不可欠のマーケターやデータサイエンティストを守り、お客さまも守る執事の存在は、まだまだ日本では組織として未成熟である。このような話が進んでいるのは、やはり欧米に軸足があるアドビならではとも言えるが、事業会社、社会からの要望も多いからであろう。

 コロナ禍において、デジタルを活用した攻めのマーケティングを行うことだけでなく、プライバシー、データ保護の点からもシステム構築、整備を怠ってはならないのだ。このような話を最後にすると、顧客データを保持することのマイナス面が気になるかもしれないが、これからの時代に大切なのは、お客さまのデータ保護をしながらも、繋がりを強化することである。ここから逃げることはできない。そのためにも企業が今行うべきことは、顧客IDの精度アップである。このSummitではDurable IDというキーワードが出てきた。

 Durableとは「長持ちする」という意味があるが、それはつまり信頼性の高いIDで個客とつながるということだ。皆さんは、どのくらいお客さまにIDが付与されているかご存知だろうか。個人情報はもちろんであるが、お客さまにはメールアドレス、携帯電話番号のようなある程度意識しているIDから、クッキー、端末識別子のような無意識に付与されているIDがある。これらを混在して企業は活用しているという現実があるが、この無意識IDとも言えるものが使えない世界へ突入する、完全に使えなくなる可能性が見えてきている。

 このような事態を回避するにはデバイスを基軸とした、信頼度の低い大量のデータに頼るのではなく、人ベースのIDをしっかりと把握した上で、お客さまから同意を得た上でのコミュニケーションが求められてくるのだ。この図5を参照いただきたいが、企業側は早急にファーストパーティーデータ戦略を実践し、信頼でき、長持ちするお客さまデータベースの構築が必要になる。
 
図5: IDの性質的理解



 もちろん当面はクッキーの代替手段の確認とチェックも怠ってはならないだろうが、企業内にあるファーストパーティーID同士の紐付けと統合管理を進めておいて損はない。これはデータガバナンス上も重要であり、質の高い顧客理解を進めていくためにも不可欠であるからだ。この整理を進めながらいかにお客さまに「Relevant information(お客様の興味関心のある情報)」を提供できているかの確認を今のうちからやっていかないと、データに基づく顧客理解の精度低下に歯止めがかからなくなり、それは優れた顧客経験の提供レベルの低下をもたらすであろう。

 今までのようにWeb上にあるフローデータ(サードパーティデータ)を拝借でき、それを自社のデータベースに組み合わせることができた時代は終わりを向かえようとしている。これはピンチでもあるが、今こそ信頼できる関係性をファーストパーティーID & Dataで構築することで、お客さまとの優れたつながりづくりを進めてみてはどうだろうか。データとプライバシーはやはり攻めと守りが重要である。このことを早く経営レベルで議論し、対策を講じていくことをお勧めしたい。

 これで前半編の最後としたいが、今回のSummitを通じて感じたことは「いかに顧客とのデジタルのつながりを企業の中心に据えながら、顧客と企業を守るのか」、そしてPlaybookに見られるような「具体的にどうDXを実践していくのか」という意外と地に足のついたものである。

 それはやはりNew Normalな世界に即時対応しなくてはいけないという危機感を反映しているのかもしれない。New Normal, デジタル時代の顧客経験の設計はどんどん全社戦略としての重要性を増している。この記事をお読みいただいた皆さんには、ぜひこのSummit情報を企業の様々な部署の方に共有して、社内で議論してみてほしい。そして、これからの顧客体験設計を全社員の総力を挙げて実現するために、多くの人々を巻き込む準備を行っていただきたい。
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