Adobe Summit 2020 レポート #02Sponsored

2020年以降のビジネスに影響を与える、6つのマーケティングトレンド【奥谷孝司 Adobe Summit解説】

 

これから顧客経験管理に必要なこと


 最後に、調査会社IDCのAlan WebberによるCXM( Customer Experience Management)戦略を実行していくためのノウハウを解説するセッションの詳細を解説してこの連載を終えたいと思う。このセッション内容には、本サミットのエッセンスが詰め込まれている。

 何度も聞いたありふれたフレーズかもしれないが、「お客さまは良質な体験の提供を企業側に求めている」。この実践ができれば、お客さまのロイヤルティ向上につながる。この言い古された言葉を具現化するために、企業は今「経験」で戦っていく必要があるとWebberはいう。

 また、この戦いに勝ち抜くために必要なのがCXMの推進であると解説している。さらに、この実現に向けたデータプラットフォーム導⼊を行う際に企業、ブランドは次の4つのポイントに注力していく必要があるという。その概念図をセッションで示されたもの、筆者の解釈を加えたものを示しているので参照いただきたい。
 
図2: CXM推進における概念図



 まず1つ目のConversation、「顧客との対話におけるコンテキスト向上」だ。この図は前回の連載でも提示したものにIDCの観点を付加しているが、お客さまと向き合うべきマーケター、CMO/CDOは今後テクノロジーを活用して会話を分析し、文脈的気付き、理解を導き出し、まさにRelevant information(お客さまの興味関心のある情報)の再起なタイミングでの提供を実践していかなくてはいけない。

 このように、この図はお客さまと向き合うことから生まれる相互活動の知見化を実践する必要性を表現している。もちろん、すぐにこのようなことが全ての企業で実現するわけではないが、「CXMの先に何があるのか」をお客さまの視点で理解するには最適の構造図であるといえるであろう。

 次にCustomer Journeyであるが、優れたカスタマージャーニーの先には、フリクションレス(摩擦のない)エンゲージメント形成が求められるという。このフリクションレスという言葉はオムニチャネル研究においても最近よく使われている言葉であるが、今年の全米小売協会主催の「NRF 2020 Retail's Big Show」のセッションでもよく耳にした言葉である。

 単にリアルとデジタルが融合しているというオムニチャネル環境の提供だけでなく、消費者自らが双方を行き来するカスタマージャーニーにおいてストレスや摩擦がない状態をつくることの重要性を意味している。つまり、「フリクションレス」とは各タッチポイントを消費者自ら行き来する「動的」な状態を指す。企業が購買体験に必要なタッチポイントをオンライン、オフライン関係なくつなぐという「状態」が機能しているかどうかを確認する必要があるのだ。

 なぜならその先にエンゲージメント、LTVがあることを図2は示している。本サミットに登壇する事業会社の話を聞いているとアプリとIoTデバイスの関係や、店頭との関係をただ繋ぐことが目的ではなく、いかに消費者に受け入れられているか、いかにハードウェア(IoTデバイスや店舗)とソフトウェア(アプリ)がお客さまの「顧客時間」において、実際に「フリクションレス」であるかどうかに我われは向き合っていく必要性があることに気づかされる。優れた顧客経験づくりには摩擦がおきないカスタマージャーニーづくりを進めていかなくてはいけないのだ。

 3点目は顧客満⾜度の定量的な評価である。単にお客さまが満足しているかどうかだけをみて満足している企業はもはや存在しないとは思うが、デジタル時代の顧客満足の理解には、やはりここにおいても今後はテクノロジーを活用しながら、お客さまの感情理解を通したブランドと顧客の相互の信頼関係の構築が必要であるという。

 この点においては、今回の前半部分でも言及したAI、CDPの活用が必要になるであろうし、前回のDurable ID、統合IDの整備なくてはなし得ないものである。このようなことができる時代はまだ先かもしれないが、改めて「お客さまが満足している」という状態とは何を意味しているのか考察していく必要がある。

 我われは「お客さまの満足」という状態に満足している場合ではない。次の満足、そしてロイヤルティ、エンゲージメントへと昇華していくためにデジタル活用が求められているのだ。顧客満足の体系的理解も視野にいれたCXM構築を実践していくべきなのであろう。

 最後に顧客経験そのものについてであるが、経験の理解とは言うは易く、行うは難しだ。これだけデジタル化の重要性を唱える筆者も「経験」を考察する際にはどうしても定性的思考に陥ってしまう。

 しかし、これからはこの顧客経験に対する定量的な理解を試みる必要があると言える。そのためにはアクティブラーニング、AIの活用が求められるであろう。この顧客経験の定量的・定性的理解の融合こそ、最も時間がかかる領域だが、まず我われは姿勢として、アクティブラーニング思考と顧客経験の定量的理解への挑戦は始めていく意思が必要であろう。

 顧客経験の本質的理解はまだ始まったばかりだ。否、むしろまだ我われは何もわかっていないのかもしれない。皆さんもぜひ顧客経験の本質的理解に挑戦していく姿勢を大事にしてもらいたい。このような姿勢なくして、顧客経験管理はないのだから。

 ここまでデジタル時代の顧客経験設計を中心に2回にわたりAdobe Summitの内容の考察を行なってきた。チャネルをまたいだ体験をどのようにつくるか、顧客中⼼な思考を社内で普及させるにはどうすればよいのか、CXM導⼊を売上向上に繋げるために何をするべきか、サイロ化された顧客データを連携/統合するにはどうすればよいのか、このような点について筆者なりの解説と意見を述べさせていただいた。

 明確な結論は提供できていないように思うが、顧客理解とCXMの最初のステップとして全企業がやるべきことは明らかになったように思う。

 CMO、マーケティング部門の人はぜひ、デジタル時代の顧客経験設計への挑戦、顧客中心主義を企業の根幹に据える努力、そして優れた顧客経験の提供が売上につながることを証明してもらいたい。

 また、そのためにCIO/CTOと連携したDAM、統合IDの整備も推進してもらいたい。これからの時代、これらの活動を通していかにお客さまに「共感」してもらえるかが鍵になる。

 IDCのAlan Webberは、経験経済は共感によって拡大すると言っています。そのためにいかにお客さまを理解し、優れた顧客体験を提供するのか?世界のCMOに今与えられた共通の課題だ。

 その回答を少しでもだせるようにDXを推進し、さまざまな取り組みを通じて、まさにアジャイルな戦い方で日本のお客さまに良質な体験を提供していきましょう。下を向いている暇はありません。常に挑戦者として、DXを武器に変えてこの戦いを勝ち抜き、日本にデジタルを通して明るい未来をもたらしましょう。
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