顧客基点の「ソーシャルメディア戦略」 #14

森美術館と中川政七商店の視点。デジタルの顧客接点は、リアルにどんな効果をもたらすのか?

 

「接心好感」の精神で対話を重ねる中川政七商店


 かつて緒方恵氏が、日本の企業SNS黎明期を代表するアカウントの運用担当者、いわゆる“中の人”であったことは、デジタルマーケティングに関わる仕事をされている方ならばご存知のみなさんも多いだろう。

 国内事例が少ない中で企業SNSの可能性を模索した緒方氏と筆者は、いわば戦友とも呼べる仲だが、その緒方氏がChief Digital Officerを務める中川政七商店が力を入れているデジタル接点は、意外(?)にもメールマガジンだ。



 その姿勢は、同社のECサイト を開くと一目瞭然。SNSアカウントのフォローを促す案内はどの企業のECサイトにも設置されているが、中川政七商店で最も目を惹くのはメルマガの登録バナーだ。

 リアルの場でもオンラインでも「出会うべく人とだけ出会う方法を常に模索している」と伝える緒方氏は、中川政七商店の顧客との向き合い方を、「接心好感」と表現した。

 同社の採用ページにも、「お客様の心に接し、お客様との間に好感が生まれる『接心好感』を大切にしています」と書かれているが、この考え方はデジタルでの顧客接点でも貫かれていて、メルマガを重視している理由も接心好感の精神に立脚している。

 「顧客がブランドに好意を持って、“あなたたちの情報が引き続き欲しいです”という意思表明があって、初めて関係性が生まれるのがメルマガだ」という言葉からは、同社の主語は全て顧客であり、明確な顧客基点発想の強い意志を感じることができた。

 また、大手企業ではスタンプ配布をフックにした多数の顧客接点構築を目的とする活用方法が多いLINEも、同社ではメルマガとほぼ同じコンテンツを配信し、送り手の”顔が見える”対話を実施している。

 さらに店舗ごとのLINEアカウントでは独自コンテンツを発信し、特に地域密着型店舗の場合は、顧客にとっても“あの店員さんからのLINEだ”と感じてもらえるような親密度の高い関係性が成立しているそうだ。

 SNS運用の現状としては、Instagramの役割はブランディングだと言い切り、具体的なKPIも設けていない。小売業の経験が長く、店舗でのテクノロジーにも精通している緒方氏だが、SNSのリアル店舗に与える影響を可視化することの難しさも痛感しているからこそ、現時点では精緻な計測に注力するよりも、理想とする顧客関係を築くことに徹底しているのだろう。
 

リアルの場の存在価値をどのように見出すか


 コロナ禍の中、リアルの場を中心としたビジネスは、まだまだ先行き不安な状況であることも事実だ。

 森美術館も中川政七商店も、その影響が大きいことは想像に難くない。しかしながら、これまで以上にリアルの場の価値を高め、そこにデジタルの顧客接点をどう寄り添わせるかを実践する両社の姿勢からは、デジタル接点活用の新たな手がかりの萌芽を与えてくれるようなセッションとなった。
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