新・企業研究 #06

「建築士のように、企業と消費者とのギャップを埋めたい」インセンス 河野矢薫氏

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 2013年にサイバーエージェントから独立し、デジタルマーケティング支援会社としてCloud-Innovationを設立した河野矢薫氏が2020年11月、社名をインセンスに変更し、事業領域の拡大を宣言した。マーケティング会社として戦略の立案から、3人制バスケットボール「3x3」(スリー・エックス・スリー)のプロチームまで運営するユニークな同社の歩みを振り返ってもらいながら、今後のマーケティングに何が必要なのか話を聞いた。
 

仕事上のイメージは、「建築士に近い」


ーーまずは、社名をインセンスへと変更した背景から教えてください。

 2013年にサイバーエージェントから独立してから約7年。その間、多くの外部パートナーと一緒に仕事をさせていたただきましたが、あくまでCloud-Innovationは僕自身にフィーチャーした会社でしたので、お客さまとは僕個人が向き合うような形でやってきました。

 そうして年数を重ねるうちに、もっと自分らしい社名にしたいと思案するようになり、社名変更を決心したんです。だから社名の由来は、僕の名前の「薫(かおる)」から取って「インセンス(香り)」にしました。

 それに、以前は僕が広告会社出身ということもあって、広告戦略の立案やそのサポートを依頼される機会が多かったのですが、最近はより上流の部分、マーケティング戦略全体や、コールセンターとマーケティング組織との連携など、仕事の内容も多岐に渡るようになりました。そこで社名を変えることで、心機一転を図る狙いもあったんです。

河野矢薫
Cloud-Innovation 代表取締役/3X3プロチーム OSAKA DIMEオーナー /shift 顧問 (Cloud-Innovationはincenseに社名変更手続き中)
1986年京都府生まれ、34歳。2009年にサイバーエージェント新卒で入社。その後、2013年に退職し起業。一般向けの商品をもつ製薬会社や酒造メーカー。個別指導塾などの案件のサポートを行う。広告だけでなく、CRM、コールセンター、BIツールなどのクライアントのビジネス成長の課題に対して提案や一緒に事業を進めていくスタンスで取り組む。また、2020東京オリンピックの新規競技である3X3チームを運営し、競技の発展やオリンピアンのサポートも行う。

ーー最近では、どんな仕事を手がける機会が多いのでしょうか。

 直近の例で言うと、一般向けの商品も扱う製薬会社からデジタルでの売上増に向けたコンサルティング依頼を受けています。その企業に限った話ではないのですが、コロナ禍で広告戦略を見直すようになり、コーポレートサイトやブランドサイトなど自社のWebサイトを重視し、顧客との接点を増やそうという傾向が見えます。

 言い換えれば、広告の誘導先としてのWebサイトではなく、消費者が必要とする情報が載っているWebサイトであることが求められていることに企業が気づきはじめ、Webサイトが情報の発信源ではなく、顧客ニーズの受け皿になろうとしているんです。

 そこで、Webサイトへのアクセス数やユーザーの新規率、SNSデータ、POSデータなどをBIツール上で紐づけて、POSデータが上がったタイミングで何が起きているのかを調べて、重要度の高い施策を行うようにしています。それは、売上や顧客の態度変容などのアクションに対しての目標や目的からの逆算による施策や意思決定を増やしていこうという流れです。

ーー最終的に売上が上がる因子を見つけるということですね。どのような施策が売上につながるのでしょうか。



 例えば、学習塾のWebサイトを見ると、どの企業もキャンペーン情報やコースごとの料金を掲載していますよね。もちろんその情報は必要ですが、本当に売上や新規のお客さまとの接点を増やすことを考えるならば、それよりもお役立ち情報として「親子の会話の方法」や「学習時の食事の取り方」など、直接契約につながらなくても興味を引きそうなコンテンツを載せた方が、アクセス数が伸びて最終的なコンバージョンにつながるケースがあります。これは、お客さまにいきなり「これどうですか?」ではなくて、「何にお困りですか?」というコミュニケーションから入るべきだということです。

 私の仕事は言ってみれば、建築士に近いと思います。建築士は家を建てるときに、企業とお客さまとの間に入って、予算や希望の間取り、将来の家族構成なども踏まえて、そのギャップを埋めていきますよね。私も同じようにクライアント企業と消費者の間に入って、消費者が欲しがる情報を企業が提供できるようにサポートします。その点で通じる部分があるのではないでしょうか。

ーー河野矢さんは独立してから7年間、ほとんどクライアントとの契約が終わることなく継続的にサポートされていると聞きました。長く関係性が続いている理由として、どんなポイントがあるとお考えですか。

 現在は5社8ブランドと契約させてもらっているのですが、ありがたいことに、どの企業とも継続的にお付き合いさせてもらっています。

 評価いただいている理由があるとすれば、ひとつは、お客さまのWebサイトやPOSなどのデータを見せていただくことで同じベクトルを向いて、そこから一緒に戦略や施策を動かしていることがあると思います。朝昼晩、リアルタイムにデータをチェックさせてもらい、1年間を通して一緒に走っている感覚です。お客さまが会社に出社して仕事をして、時には残業することもありますよね。私もそれと同じように時間を過ごして、チームの一員として一緒に働くスタイルを取っています。それは、前の企業名でもあるようにクラウド上ですべて仕事を進めて対応していくことで可能になります。

 もうひとつは、いい意味で、ポジネガどちらでも結果が出続けているからです。先ほどお話したようにすべてのデータで何が悪く、何が良かったかをお客さまと要因分析を一緒にしていることが重要になります。お付き合いいただいている一般向けの商品も扱う製薬会社の事例で、担当商品の売上が3年間で140%アップしたものもあります。来期の目標が現状から10億円アップであれば、そのための施策を一緒に考えて実行します。次の目標も一緒に立案や設定しているからというのもあると思います。クライアントと同じ船に乗っているんですよ。

ーー複数社の仕事をひとりで担っていると、タイムマネジメントが大変ではないですか?

 そうですね。忙しいタイミングもありますけど、大事にしているのは、考える時間をしっかり取ることです。パソコンの前に座ってネットでつながっていると、なかなかいい考えが思い浮かばないので、走ったり、散歩をしたりしながら、考えることが多いです。

 実はお客さんとのミーティングも、ランニングしながら参加することがあります。会話を聴きながら、自分が発言するときだけミュートを解除するんです。我われの業界だと、会議中もスマートフォンやPCで他の業務を並走しながらなんてこともあるし、私もそうですが、タイミングを見てミーティングの参加の仕方を変えることで新しい視点で物事の発想が可能になります。

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