業界人間ベム #特別寄稿 #02
動画CMの主導権は、テレビとネットどちらが握るのか?【業界人間ベム 特別寄稿 #1】
「動画CM」の主導権は、テレビとネットどちらがにぎる?
今の時代素人でも動画コンテンツを発信できますから、今こそプロの仕事を見せつけなければなりません。まあ、そのためにも一定以上の制作費が必要なのですが、現状で、東京キー局5局の制作費を全部足してもNHKのそれに敵わないくらい差があります。
さらにコロナで広告収入が減る民放と、受信料が確実に入るNHKの体力差は広がっています。これもいいことではありません。NHK再編の議論が持ち上がるのは当然でしょう。
また、NHKは先行してサイマル放送(ネットによる同時配信)を行ってきましたが、これが4月から常時同時配信になります。サイマル放送にはNHKが一番積極的でした。民放もこれには抵抗をしつつも、とうとう抵抗しきれずに年内に開始されます。リニア放送がネットで完全配信(常時配信)されると、また状況は大きく変わります。既に米国ではアプリで各局のリニア放送の同時配信をタダで観られるものが多くあり、CMもたくさん入っているようです。
テレビ放送と同時にインターネットで配信する「NHKプラス」も今はまだ番組の一部でしかないですし、権利の関係で映像が出ない場合もかなりあります。しかし、これが4月から全時間、全番組で同時配信される「完全配信」(常時配信)になると、BS開始時に懸念されたローカル放送不必要論が復活します。
ネット配信に広告を入れるにはエリアを特定する技術はありますし、もっと言うと、そのエリア特定は別にローカル放送ごとのエリア(基本都道府県)ではなくて、広告主が自在にエリアを特定できます。CMを売る側のエリアではなく、CMを買う側のエリア特定です。
民放テレビ局にとって、キー局と系列ローカル局という体制維持の問題もありますが、もうそんなことよりも本質的に、「動画CM」という広告マーケティング手法の主導権(主軸)がデジタル勢に移るのか、テレビ側がテレビのコンテンツで主導権を渡さないのかという問題なのです。
2019年にインターネット広告費がテレビ広告費を超えましたが、その中身はまだまだリスティング広告やバナー広告などです。CMという情報量や役割も違う広告市場では、いまだテレビCMが圧倒しているわけですが、今後もこの市場の軸が放送なのか、配信なのか。はたまた、テレビ局が放送を軸に配信によるものにも展開できるのか、グーグルやフェースブックの巨大プラットフォーマに軸が移るのかが問題なのです。
テレビ局にとって体制維持を選択していると主体を奪われる「取返しのつかないこと」になるやもしれません。
そのひとつの見方として、リビングルームの大画面を誰が取るのかです。既に4Kに関してはネット配信が先行していますし、常時同時配信が普及すればチューナーがない大画面テレビが出てきておかしくありません。「ニュース、スポーツ中継などリニア放送をネット配信から大画面で観る」、「4K、8Kなどの高精細コンテンツも大画面でかつネット配信で観る」。こうなる可能性はかなり高いと思われます。
ここまで、日本のテレビの状況を整理してみました(第1回目は当たり前の話でしたが)。
ベムは広告業界に育ててもらったアドマンでしたし、テレビで育った人間でもありますので、基本テレビの味方のつもりです。しかし、一方でネット広告をゼロからつくってきた者として「テレビにとってのDXとは・・・」を考えています。
第2回では、まずテレビスポット投下での到達実態を把握して、「動画CM」の軸を維持する条件と、その条件のひとつでもある「CMのバイイング方法、データによるプランニング方法」について書いてみます。
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