業界人間ベム #特別寄稿 #03
テレビCMは、ミドルファネルを担えるのか?【業界人間ベム 特別寄稿】
テレビの新しい可能性「SAS」とは?
さて、何回も同じCMを見せられるよりも、鮮度の高いCMのほうが視聴者の注目に結びつきやすいと言えます。これは視聴質データを見ても明らかです。視聴者にとっては、CMもテレビの中のコンテンツのひとつですから、同じものばかり見せられるのではなく、いろんなものに接触したほうが楽しいはずです。
そういう意味では、少量投下でも多種のCMが入ったほうがいいのです。10000GRPの1案件より、100GRPが100案件の方がテレビ局も単価を高く売れます。ただし、「少量多種案件」をこなすにはオンライン発注システムが必要です。しかも1本から買えるようにして、1本ずつデータで吟味できるようになることです。
このシステムは、すでに完成しています。日本テレビが主導して開発した「SAS(Smart Ad System)」は、Web上でプランニングおよびバイイングができます。これは広告主にとっても非常に良い仕組みです。
従来の番組とスポットというCM枠買い付けに、第3の買い方が登場したわけです。データを元にターゲット効率などが良い枠を選り好みできます。従来、広告代理店の手売りのみだったテレビCM枠販売にオンラインでの受発注が加わり、大型広告主だけでなく、様々な広告主やブランドが少ない投下量でもテレビCMを使えるようになることが、テレビ局が生き残る道のひとつです。
現在、%コストで買い付けている広告主は、この仕組みでは単価が高いと言いますが、ターゲット効率や消費者反応の良い枠をデータで選別できれば、費用対効果ではむしろ安くなるでしょう。
「広告主は1本ずつ選り好みできる。視聴者はいろんなCMに遭遇する。テレビ局は単価が上がる」。これは3者にとっていいことです。
また、このシステムが画期的なのは、エリア単位で最適な枠選びができることです。今までは、まず選局ありきで、局ごとにスポットプランをもらって改案を指示するなどのやり取りがあります。そのため、複数局使用の場合は、局単位では最適プランでも、全局オーバーラップさせてエリア統合での最適になるとは限りません。
SASでは局を跨いで最適なプラン(例えば最もターゲット含有率の高い枠を局を跨いで上から10本買う)を組めます。もちろんデータで「買う枠の質」を吟味できます。
ミドルファネルを担うテレビ
この仕組みでの科学的なテレビCM枠買い付けは、デジタルに主体を置いたデジタル×マスという新しい概念の広告マーケティング手法に貢献することになるでしょう。つまりデジタル側から(デジタルを起点に)コミュニケーションデザインやクリエイティブ開発をする手法です。この場合、テレビCMもいわゆるミドルファネルの役割を果たします。
従来テレビはファネルの最も上(アッパーファネル)で機能するものですが、ネットと組わせても、ミドルファネルで機能する施策がないと、間が空いて連動しないということがありました。つまり、デジタル領域のロワーファネルから組み立てて、ミドルファネルでテレビCMが機能する状況をつくることです。
ベムはこれを「デジタルで素地をつくって、テレビで刈り取れ」と表現します。テレビにとって機能する領域が増えることはとても良いことです。テレビCMの価値は、テレビでCMを打っていることそのものにあります。つまり「テレビCMをやっているということは世間の皆も知っているんだ」と認識させることが重要なのです。テレビはブランドが「社会事化」しているという意識を持たせることで、最後に背中を押す機能を担っています。
さて、「テレビはどうなる」は単にテレビ局の生き残りがテーマではありません。テレビはずっと担ってきた視聴者へのコンテンツ提供をデジタル化する時代にどう最適化するかというテーマです。もっともそれが「テレビが生き続ける」ということでしょう。
次回は最終回、「テレビ局がすべき7つのこと」を提言します。
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