テクノロジー

市川海老蔵『通し狂言 源氏物語』 最新技術を駆使した映像表現の裏側と制作者の思い

芝居の良さを、過度な演出で消さない

 上演に向けては、年が明けてからミーティングを行い、4月から全体構想を固めていった。一方で歌舞伎は、最終的な台本が決まるのが1週間前というほど、直前まで見せ方やセリフを練り上げていく。

 そのため、プロジェクションマッピングの映像も先行して10本制作し、その中で最終的な調整を経て8本が採用された。

 「芝居は演者の気迫や生っぽさが重要。演者の動きに、映像が反応するように制作しています。今回は、海老蔵さんの手の先2箇所、肩の1箇所にセンサーをつけ、その動きを8台のカメラがトラッキングし、映像を投影しています」

 原作の『源氏物語』では、光源氏の夢に龍神が出てくるシーンがある。それを歌舞伎的な解釈で捉え直し、海老蔵が龍王になって空中を飛ぶ。その背景は全て波になっており、海老蔵が手を動かすとその動きに呼応して、背景の波も動くようになっているのだ。

 「特に工夫したのが、映像表現が芝居の良さを消さないこと。すべての動きをリアルタイムに映像に反映すると、芝居に対して“うるさく”なってしまう可能性がある。例えば、手をぐわっと動かすアクションがあるとして、その前の動作の手を曲げるときにも映像が反応してしまうと、過剰な演出です。それを防ぐ調整に時間をかけました」

 今回の「イマーシブプロジェクション」は、没入感(イマーシブ)を高めるために、奥行きや立体感を得られる演出を行った。立体物の平面部分に対して映像投影を行うプロジェクションマッピングとは、違った見せ方が実現できたという。

 「特に石山寺のシーンは、見どころです。妙幕の奥に歌舞伎役者が6人立ち、その奥にも映像を映しているため奥行きがあるように見えますが、照明を消すと役者だけがすっと消えるんです。イリュージョンのような不思議な感覚を与えられます」
 

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