新・企業研究 #07
【新生・電通デジタル誕生】電通デジタルと電通アイソバーが合併、日本最大級のデジタルマーケティング会社が描く未来
2021/09/02
グローバル展開も合併により強化
小林 グローバルという視点でも、バイリンガル比率の高いアイソバーチームが合流したことで、今後のビジョンが広がっています。電通グループは海外で多くのエージェンシーや専門サービス会社を買収してきましたが、現在ではそれらが「電通インターナショナル」傘下でメディア、クリエーティブ、カスタマーエクスペリエンスマネジメント(CXM)という3つのサービスラインに再編されています。電通デジタルは1社でその3つの機能を備えていることから、電通インターナショナルの各サービスラインと連携してグローバルプロジェクトを実施する機会が増えています。
ただ、電通デジタルはグローバルについてはまだまだ「出発点にいる」という状況なので、人事制度なども含めて、本当の意味でのグローバル対応を今後の5年、10年で目指していかなければいけないと考えています。
合併に関しては、年内は移行期間ということで、電通デジタル内に電通アイソバーの組織がそのままあるという形になっていますが、来年1月には両方のリソースが最適にミックスされた組織としてスタートする予定です。
単純な刈り取りから、LTV最適化へ。マーケティング環境の変化
――電通アイソバーとの合併理由にクライアント側の課題や業界の環境変化があるということでしたが、具体的にはどのように変化しているのでしょうか。
杉浦 大きく2つの地殻変動があると思っています。1つは「クッキーレス」、2つ目は「購買のデジタル化」です。この2点は、デジタル広告の世界で言えば、2002年初頭に運用型広告が台頭した時に近い、ビッグバンが来ている感覚があります。
1つ目の「クッキーレス」については、サードパーティクッキーの利用が制限されることで、今までの「媒体社や第三者のタグを入れておけば広告配信が自動最適化される」手軽なデジタルマーケティングの手法が限界を迎えていることかと思います。企業が生活者とのコミュニケーションを1to1で最適化するためには、明確な同意を得る形でファーストパーティーデータを管理し、システムをきちんと整えた上で、ユーザーにとって真にメリットのある顧客体験を考えるといった、より本質的なマーケティングの取り組みをしていかなければ、法律的にも許されず、効果も出ないという状態になってきていることです。
実際に、「今まではリターゲティングに頼った刈り取り施策中心だったが、その効率がどんどん下がってきているので、CRMデータを活用してLTVを最適化したい」という話や、「自社のCDP(Customer Data Platform)を整備して、顧客体験を強化していきたい」という相談が増えています。その延長上には、スマホアプリやLINE公式アカウントをハブに、リアル店舗も繋いだ体験強化の相談や、よりLTVを高めるためのロイヤリティプログラムの運営、さらにはD2Cのサービス開発にチャレンジしたい、という要望まで様々あります。
まさに、広告の世界と、CXやDXの世界が溶け合っていく流れが、「クッキーレス」の文脈と、コロナ禍における「外出の自粛」や「非接触エコノミー」の台頭が相まって、急速に進んでいる感覚です。
だからこそ、電通デジタルとしては、広告とデジタルソリューションの世界が分断せず、シームレスにサービス提供ができる体制を整えること、さらには、電通アイソバーのCXのケイパビリティの統合も急いだ形です。
そういったファネルの上流から下流まで、システムやデータで全体をつなげながら、顧客の獲得効率や体験を高度化していきたい、という動きは、特に従来から「ブランド」の重要性を理解していた、大手クライアントから始まっているように思います。ある日、突然すべてのクライアントがそういったモデルにガラッと変わるわけではありませんが、ある閾値を超えて、経営レベルのイシューとして認識されると、急にDXの流れが加速するケースが多いです。
後編に続く
- 他の連載記事:
- 新・企業研究 の記事一覧
- 1
- 2