デザイン

レイ・イナモト率いるクリエイティブチームが考える、「デザインと経営の融合」で叶えるビジネストランスフォーメーション

 ここ数年、ビジネスにおけるデザイン経営に注目が集まっています。しかし、言葉だけが先行し、しっかりとデザイン経営を実現できている企業は多くありません。だからこそ、企業がDXを推進する中で、顧客との関係性を強化する「デザイン」という観点が非常に重要になっています。そこで今回は、デザインと経営の融合を実現させている、I&COの共同代表の高宮範有氏と、Strategistの近藤まり子氏にビジネスにおけるデザインの役割やDXを手段で終わらせないために大切なことを聞きました。
 

ビジネスのトランスフォーメーションが手段で終わりがちな理由

——DXに注目が集まる一方、その言葉だけがひとり歩きしてしまっている印象があります。ビジネス自体のトランスフォーメーションを含め、DXを手段で終わらせないために大切なことは何だと思いますか。

高宮 DXというと、VRやメタバース、データ管理ツールの導入など何か新たな取り組みをしなければと考えがちですが、そもそも「なぜDXが必要か」という目的が明確にできていないまま目先の流行に囚われている企業が多い印象を持っています。まずは、「なぜDXが必要か」、「DXは自社にとって本当に必要か」をクリアにする必要があると思います。

ひとつ例を挙げると、我々が企画段階から参画したユニクロのチャットボット「UNIQLO IQ」は、問い合わせいただいた顧客との接点で、ニーズをヒアリングし、商品を提案したいという表向きの開発背景がありました。しかし実はその裏側に、ユニクロ内の各部署で商品や顧客情報などが統一されていないという課題が存在し、そのデータを統合することがもうひとつの主題でもありました。

「UNIQLO IQ」の導入後は顧客からの問い合わせが倍になりましたが、その約6割をチャットボット機能で対応するようにテコ入れしました。残りの4割は今までと同じように人が対応しますが、簡単な問い合わせを機械に任せられるようになったことで、より深い内容の質問に専任スタッフが注力できるようになりました。人が対応する問い合わせのなかに多くのヒントが隠されています。顧客との会話を機械から人へとエスカレーションすることで次年度の商品改善に繋が⁠った例もあります。

データ統合とともに開発を進めたチャットボットが、お問い合わせへの向き合い方を変え、結果的に商品の改善につながり売上に貢献する。そういうことが我々の考えるDXかなと思っています。DXに取り組むということは、ツールを導入することではなく仕組みづくりであるべきで、それとあわせた仕事の仕方そのものを変えるアプローチだと考えています。

近藤 何よりも先に課題やゴールがあって、それがデジタルで解決することもあれば、デジタルではない方法で叶えられることもある。その前提でクライアントと密に話すようにしています。

そして、すべてを一気に変えようとするのではなく、どこまでをどの期間で改善するかを切り出したり、最終ゴールまでのプロセスを考えたりと、クライアントと一緒に歩むことを大切にしています。そうすることによって一つずつ成功体験ができ、「あの部署は、あんな新しいことに取り組んでいるらしいよ」などとクライアント社内で話が広がり、よい循環ができていくことがあります。
 
 

ビジネスにおけるデザインの役割

——企業に寄り添い顧客を理解する一気通貫のビジネス支援のなかで、「デザイン」はどのような役割を果たすのでしょうか。

高宮 我々は、ビジネスにおいてデザインは必要不可欠な存在だというスタンスでいます。つまり、本来はわざわざ「デザイン経営」という言葉を作る必要すらないと思うんです。共同創業者のレイ・イナモトも、「デザイン経営」という言葉や概念がデザインの立ち位置を特別なものにし過ぎていて、一部の人にしか担えない領域という印象を与えてしまっていると、よく違和感を口にします。

例えばWebサイトを作るとき、1の効果しか得られない施策と10の効果が得られる施策があるとして、その違いを生み出す部分に「クリエイティビティ」や「デザイン」が存在します。デザインの力によって、生活者により理解してもらうチャンスを広げることができる、そういった拡張性を持っていると考えています。

そして、もうひとつデザインに重要な要素として継続性があります。たとえば、コカコーラやナイキがブランドとして強いのは、最初につくったロゴマークの強さもあると思います。素晴らしいデザインは、「時」を超える耐久性があるのです。ロゴに限らず、サービスのデザイン、プロダクトのデザイン、空間のデザインなどもビジネスを安定させ、新規顧客を呼び、既存顧客とのリレーションを強くします。そのようにデザインは、ビジネスやチャンスを広げて安定させ、継続させていく必須要素だと理解しています。

I&CO Tokyoの他社にない特徴は、社内にプランナー専門職を置かないことです。それは、アイデアを考えることは特殊なスキルではなく全員ができることであり、我々がクリエイティビティを大事にしたいという思想を持っているからです。また、デザイナー以外の職種でもデザインについて意見交換していける環境を作っています。「デザイン」という言葉を特別視し過ぎて、ひとり歩きしてしまわないように意識しています。

——プランナーを立てないチームで、どのような体制をつくりプロジェクトを進行しているのでしょうか。

高宮 I&CO Tokyoにはプランナーというポジションがなく、「ストラテジー」、「デザイン」、「エンゲージメント」の3つの職域が存在します。

「ストラテジスト」はビジネスのストーリーをデザインし、新しい視点、視座、発見を与えることでメンバーの思考を共通化する役割です。「デザイナー」は目に見えるアウトプットをもってチームの目標や思考の過程、最終的にやろうとしていることを具体化する役割を担います。「エンゲージメント」は、これらを繋げて一連のプロセスをデザインする役割です。そこに私のようなディレクターが加わってプロジェクトを牽引していきます。3つの職域が同じゴールに向かってそれぞれの「デザイン」をすることで、プロジェクトを前進させ、完成させるというアプローチをとっています。

近藤 日々クライアントと対峙する中で、デザインは抽象と具体を繋いでくれるものだと実感します。抽象的なぼんやりとした課題に対して、「こういうことですか?」「こういう考えですか?」と具体的に、かつ一緒に考え、最終的に形にすることによって解決していく。I&CO Tokyoは、クライアント視点と顧客視点の双方から「デザイン」を軸にアウトプットを出していくことが強みです。

——デザインは、企業と生活者を繋ぐタッチポイントということですね。

高宮 デザイナーというと、日本においてはまだ特別な存在という感覚があります。クライアントもデザイナーがつくるものに口を出してはいけないと思いすぎているところは多いです。しかし、受け手としての視点、ユーザーとしての視点や考えはクライアント側にもあるはずなので、デザイナーがつくるものにも全員で意見を出し合います。実践して手を動かすなかで答えを見つけ出していく点においては、いろいろなモノづくりにおいてもアプローチの仕方は一緒なはずで、その道具として我々はデザインという方法を使っているだけです。

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