デザイン
レイ・イナモト率いるクリエイティブチームが考える、「デザインと経営の融合」で叶えるビジネストランスフォーメーション
2022/03/01
ブランドの軸を守るために原点回帰
——事業会社の担当者がデザインに口を出してはいけないという悪しき風潮を変え、クライアントがアイデアを出し課題を一緒に改善する環境をどのようにつくられていますか。高宮 クライアント側だけで悩む時間を作らせないこと、我々だけでアイデアを出さないことです。ひとつのチームになって、課題の洗い出しから、ロードマップの作成までを必ず共に歩むこと、しいていえばI&COは、クライアントが我々に頼らなくても自走できて将来像を描けるようになるところまで牽引します。
デザインは、特別なスキルがある人だけが担う業務ではないと先に話したように、アイデアも誰でも出せます。むしろ、ビジネスや商品への理解が深いクライアント側の担当がそのアイデアをパートナー企業にぶつけて、何がそのブランドにとって正解かを両社で話すべきなのです。
——お互いがその領域のプロフェッショナルだからこそ、アイデアもプラスの相乗効果が出るということですね。お話いただける参考例はありますか。
高宮 最近では、LEXUS のWebサイトリブランディングを手掛けました。コロナ禍で対面販売が制約される中、デジタル上で「LEXUSというブランドにふさわしい体験とは何か」を考え直したいという相談をいただきました。
I&COの役割は、表層的なサイト改修ではなく、この時代に合ったLEXUSらしいデジタル上の体験をデザインし、ユーザーが本当に欲しい情報をシンプルに届ける情報設計をすること。そこで、LEXUSの皆様と話したことは、商品を通してブランドを語るべきだという考え方でした。
LEXUSは、アートイベントをしたり、1日限定のレストランを展開したり、車以外の活動でも「LEXUSのブランド」を表現しています。一方で、LEXUSのWEBサイトに訪れる方の多くは、クルマの情報を目的としています。クルマ以外のコンテンツと車種の情報が混在している状態を整理し、商品の世界観をWebサイトに反映させることが、ブランドを語ることに直結すると考えたのです。
というのも、LEXUSはドアが閉まる音、窓が閉まる速度、ウィンカーが消えるタイミングなど、車に乗る人を中心とした視点で細部に拘る開発をしています。その繊細な拘りをWebサイトでも体現しようという考え方が、プロジェクトの軸となりました。
また、Webサイトの設計が、モバイルファーストになっていないことも足元の課題の一つでした。情報量が多く、ページの階層も複雑で、「どのページまで見たらこの車種の情報をすべて把握した状態になるのか分からない」というストレスをサイト訪問者に残してしまう状況があったと考えています。
こうした状況を踏まえ、プロジェクトに「From Catalogue To Cockpit(カタログからコックピットへ」というコンセプトを掲げました。必要な情報がすぐ手の届くところにあり、シンプルで使いやすい導線を目指す方針を「Cockpit」の言葉で表し、これからはプロダクトでブランドを語りましょうと提案したんです。LEXUSは「車作り」に1本筋が通っています。それをデジタル上でも伝えたかったので、デコラティブになっていたWebサイトを削ぎ落とし、本質回帰しました。
——LEXUSが持つブランドの軸を明確にし、Web上でもそのルールを適用する。なかなか簡単には進められないことかと思いますが、特に苦労されたポイントはありますか。
高宮 自動車の購入を検討する場合、多くの生活者はモバイルで情報収集をしている時代です。そのため、サイトに訪れた際、最初のタップでどこまで情報を表示できるかが重要になってきます。何を顧客に見せるべきか、その情報でどのような体験ができるのか、何度もLEXUS側の担当と話し、答えに辿り着くまでに時間を要しました。
意図があってサイトに訪れているからこそ、パッと目につく領域に車のサイドプロポーションや走っている様子が自動再生され、視覚的に情報が得られるように改修したり、階層を深くせずメニューをシンプルに改善したところ、サイト離脱を防ぐことができたのです。今後は、情報設計に加えて、映像や画像などDigitalで使用する素材の作り方や整理の仕方も最適化していくことで、よりLEXUSらしい体験をデジタル上で展開していけるはずです。