TOP PLAYER INTERVIEW #02

大手企業も被害、マーケティングにセキュリティの意識を【CHEQ 布施一樹氏 インタビュー】

前回の記事:
メタバースはマーケティングを変えるのか? 一般社団法人Metaverse Japan馬渕邦美・長田新子インタビュー
  デジタル広告やWebサイトへの不正なトラフィックからビジネスを保護するマーケティング部門向けソリューションを提供するCHEQ AI Technology (以下 CHEQ)。イスラエルに本社を構え、世界中で1万2000社に利用されている。2021年11月、同社 東アジア市場の事業統括ゼネラルマネジャーにDatorama の元日本法人代表の布施一樹氏が就任した。なぜ今、マーケティングにセキュリティが重要になっているのか、その背景を同氏に詳しく聞いた。
 

CHEQの東アジア事業統括に就任した背景


――今回、CHEQ 東アジア事業統括ゼネラルマネジャーに就任を決意された理由から教えてください。

 私はDatoramaを2020年に退社した後、子どもの教育のために日本を離れてマレーシアのクアラルンプールに住んでいました。そこでCHEQで働いていたDatorama時代の同僚から一緒に仕事をしないかと声を掛けられたのがきっかけです。最初は、日本市場でビジネスを拡大するためのアドバイザリーとして働き始めました。
   
CHEQ AI Technology
東アジア事業統括ゼネラルマネージャー
布施一樹氏

 一緒に働く中で、CHEQがどのような社会課題を解決しようとしているのか、何を目指していくのかといったビジョンに触れて、私もそれに共感するようになりました。その後、東アジアの事業統括というポジションでリーダーシップをとってもらえないか、という打診をもらったんです。今までサイバーセキュリティー市場で働いたことはありませんでしたが、「やりがいがある仕事だ」と思って引き受けることにしました。

――現在、何を担当されているのでしょうか?

 数多くのことを担当していますが、大きく3つあります。ひとつ目は、ビジョンを実現するために必要な組織づくりです。以前のCHEQは、アドベリフィケーション領域を重点的に取り組んでいましたが、現在はPPC広告の不正クリックをブロックするソリューションに生まれ変わっているため、組織の再編が必要でした。また、同時に強固な組織にしていくために、新しいメンバーの採用も行っています。

 CHEQの本社はイスラエルです。そのため、本社から見ると日本は営業組織になるのですが、両国は言語も文化も、ビジネス習慣も異なるため、本社からの支援を受けるハードルが高くなりがちです。そのため組織をつくる段階では、基本的にゼロからになり、日本でスタートアップを1社つくるぐらいの気概で臨まなければ、難しいと感じています。

 2つ目は、市場開拓戦略の立て直しです。我々が解決しようとする不正トラフィックの問題を日本国内で認知してもらい、その中でアーリーアダプター層がどう動いて、どう反応するのかなど、我々が次のステージに進むための戦略づくりに着手しています。

 3つ目は、CHEQが新しい価値を提供していく上で、不正トラフィックがビジネスに与える影響をマーケティングやデジタルを推進する人々に理解してもらうための啓発活動です。我々のソリューションを評価してもらい、お客さまになっていただくための新規顧客の開拓にも取り組んでいます。
 

不正トラフィックの影響で、経営に大打撃


――現在のマーケティング領域では、どのような問題が起こっているのでしょうか。

 まず不正トラフィックが大きな問題となっています。その原因は、ボットの増加です。ボットが人間のふりをして、様々なWebサービスのアカウントを登録したり、ECサイトで買い物をしたりする現象が増えています。

 例えば、最近、ソニーグループの最新のゲーム機「プレイステーション(PS)5」、バンダイナムコが抽選販売や数量限定販売の玩具やフィギュアや米マイクロソフトのゲーム機「Xbox」などがオンラインで販売されると、転売対象になりやすい人気商品を扱う特定サイトのアクセスが激増し、そのうち7~8割がボットだという記事がありました。つまり、転売目的のボットが先行して購入してしまい、本当に商品が欲しい人に届いていないということになります。その結果、転売によって価格が吊り上がり、企業イメージにダメージを与えています。

 また、PayPalは、新規顧客を獲得するためにインセンティブを付与するキャンペーンを仕掛けましたが、ユーザーの多くがボットによって作られていた偽アカウントだったため、約450万件のアカウントを閉鎖しました。同社は上場企業ですから、この問題を株主に公開する必要があり、公表直後には同社の株価は25%も下落しました。

 デジタル広告などペイドマーケティング市場は、グローバルで約44兆円です。仮にその10%が不正被害に遭うと、それだけで4兆円以上の損害になってしまいます。日本でもコロナ禍で、社会や経済のデジタルシフトが加速しました。デジタルにかける費用が大きく膨らんでいる中、企業はさまざまな側面で不正を働く人から狙われています。それにも関わらず、セキュリティに対する感度が低いのが現状です。

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