マーケティングの現場から考える「5年後の実際」 #01

私がCRM・マーケティングオートメーションに限界がきていると考えた理由【LIFULL菅野勇太】

セグメント配信の踊り場を脱するために

 ここでマーケティングを論じるつもりはない。広範囲で複雑、毎日のように新しいコンセプトが生まれる。もはや哲学だ。

 社内ではマーケティングを教える立場であるものの、型を教え込む育成法は数年先を見据えると意味を失ってきた。そうは言っても組織の中での役割やスキルの定義を示さなければならず、過去に自ら構築したマーケターのアイデンティティとそれを足枷のように捉え始めた本音との間で葛藤している。

 話は横道にそれてしまったが、ここでは企業から消費者へ価値を提供する全過程をマーケティングとしよう。その価値が一人ひとりにとって完全に好ましいタイミング、プライシング、ロケーション、プロダクト或いは無形のサービスとなって具現化し、魅力的にプロモーションされ、提供される。それらの総称を知覚的満足も含めた形でCX/UXと呼んだり、ソリューションと呼んだりすることもあるだろう。

 市場のシェアを取る手段は様々だが、マーケティングが目指す究極の姿が自社の顧客の本質的な要望を完全に、いや想像を超えて満たすことならば、それは必然的にOne to Oneに向かう。マーケティングでもよく使われる5W1HのフレームワークのWhoは、まさしく文字通り「一人ひとり」になる。



 セグメント配信の踊り場を脱するためには、本当の意味のOne to One、究極のソリューションに近づくことでしか成長はない。
 

AIが解決手段になるか?

 ここまでの文脈で読者の頭に浮かぶものは、やはりAIだろう。

 近年AIという強化パーツがCRMに搭載されるようになった。それはセールスやCS、コールセンター、対面販売など、顧客と直接向き合うスタッフの業務効率を改善し、接客品質を向上させ、ナレッジを蓄積・活用するなどの利点が期待できる。

 ただ、これらは元々人間のスタッフが顧客を受け持ち対応するモデルであって、人間の能力拡張が基本コンセプトだ。ここでは主にBtoC、特に数十万、数百万という顧客を抱えている場合を問題に取り上げたい。

 BtoCのOne to OneマーケティングにおけるAI活用はBtoBにやや遅れを取りながらも広がりつつある。プッシュするタイミングとメッセージ(コンテンツ)のチョイスが、ある顧客にとって最も好意的な反応を示すように最適化してくれる機能の実装が主だ。



 当社実績で2014年ごろに、メールの配信タイミングを日々決まった時間から「ユーザー毎に違うアクショナブルな時間」に配信されるようにプログラムを組んだところ、メールの開封率やCTRなどの各種転換率が改善した経験がある。

 しかし、私はどこか違和感を抱いている。確かに顧客一人ひとりに違うタイミングでメッセージを配信しているが、それがOne to Oneなのか。そもそも「顧客の好ましい反応」とは真実か。煩わしくてオプトアウトしたいと思いアクションを起こしているだけかもしれない。この違和感の正体は次回以降の連載寄稿で深掘りしたい。

 とにかく私の主観では現時点のAIは部分的なガジェットであり強化パーツの域を出ない。既存の考え方の延長線上で「One to One的な武装」をしているのであって、思想ごと入れ替わるほどのインパクトではない。

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