ポスト平成時代の“AIネイティブCxO”量産化計画 #02
AIは、CMOの仕事をどこまで奪うことができるのか?【野口 竜司】
AIによりCMO役割を拡張・代行する
さて、ここでAIの話に入ろう。AIはあくまでツール・装置の一つであり、CMOの”代わり”ができるわけではない。しかしCMOの仕事を一部代行したり、拡張することはできる。前回の記事で、データは石油、AIはエンジン、CxOはドライバー(運転手)だと紹介した。この例えに沿って表現するのであれば、CMOは、顧客接点を司りビジネスを創造する責任を持つメンバーとして、「AIという新しいエンジンを使いこなし、目的地により早くより正確に到着するようなドライビング」を期待されているということになる。
先に述べたCMOの役割の抜粋である「顧客インサイト」「顧客体験(CX)の提供」「ビジネス・市場創造」のテーマにおいて、データとAIを使いこなし、最適化もしくは改革をもたらすことがCMOには期待されているのだ。
AIにより顧客の未来を予測し顧客体験(CX)を向上させる
「顧客インサイト」「顧客体験(CX)の提供」「ビジネス・市場創造」に、3つのタプのAIを適応させていくことで分析改革、UX改革、ビジネス改革をもたらす図を用意したのでまずは見ていただきたい。顧客インサイト(顧客行動や心理の深層における洞察)に、「顧客行動/ニーズの未来予測AI」を掛け合わせることによって、CMOは全く新しい分析能力を保有することになる。これは過去、CMOが先導してきた旧来型の顧客分析の仕事をAIに取って代わらせる行為でもある。「顧客行動/ニーズの未来予測AI」の導入によって、デモグラや過去の行動、その他現存するデータによって顧客の理解や分析を進めてきた従来の手法に加えて(もちろんこれらの分析はこれからも必要不可欠ではあるが)、より複雑で繊細な顧客のシグナルを元に未来を予測し、意思決定や施策実施を先回りでできるようになる。これによって分析行為が、従来のような”過去”の傾向分析からの気づきの発見ではく、”未来”の行動を予測するものへと発展する。複雑系の人間行動特徴を捉え未来を予測することができる「顧客行動/ニーズの未来予測AI」は、顧客インサイトを拡張させ、分析行為を改革させるパワーがあると著者は考えている。
「顧客体験(CX)の提供」についてはどうだろうか。顧客体験(CX)に「接客インターフェイスAI」をインストールすることによって、顧客体験(CX)の提供の自動化もしくは拡張させることができるようになる。このAIは、顧客と企業のコミュニケーションのあり方を大きく変える可能性をはらんでいる。ウェブサイトにおけるAIチャット接客、店舗へのスマートスピーカーの設置、変なホテルに代表されるようなロボット受付や、Amazon Goや福岡にある夜間無人スーパーのTRIAL、といった取り組みが、接客インターフェイスAI活用の代表例と言える。
接客インターフェイスAIにまつわる技術の発展も著しい。例えば、Googleが提供する音声合成は、合成された音声と人間による肉声を聞き分けることが難しいくらいのレベルになりつつある。VR・ARの発展もエンターテイメント性を加味した接客という観点で大いにその応用が期待できる。また、先に述べた「顧客行動/ニーズの未来予測AI」をリアルタイムで走らせ、その結果を「接客インターフェイスAI」を介し、ひとりひとりにパーソナライズされた体験の提供もけっして夢の話でもなさそうだ。ここまでくると顧客体験(CX)の”改革”と呼んでいいレベルになってくる。
「ハードウェア/サービスへの組込AI」は各AIの統合的な組み合わせによるものであり、「ビジネス・市場創造」を改革する力を持ちえるAIである。それぞれの企業の生業によるが、例えば車、家電といったプロダクトへのAIの組込みや、無形サービスの業務フローへのAIの組込がそれにあたる(AIによる証券取引や、面接のAI化、配送サービスのロボティクス化などが例となると付け加えると、想像が付きやすくなるだろう)。これらビジネス改革のレベルになるとCMO単独の範囲ではなくなるかもしれないが、顧客と企業の橋渡し役であるCMOがリーダーシップを取れば、顧客にとって本当に有益で、顧客価値の高い改革を生み出してくれるのではないかと期待している。