マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #01

習慣の魔力。どうすれば、人は繰り返し買うようになるのか

 2020年10月開催「マーケティングアジェンダ2020」のキーノートに登壇する、ニールセンシンガポールでコンシューマー・ニューロサイエンスを専門にする辻本悟史氏の連載がスタートします。「マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか」をテーマに、辻本氏が専門とする脳科学や行動経済学の分野から人間の行動とその背景に迫ります。
 

日々の行動の大半は習慣的:これを利用しない手はない


 私たち消費者のライフスタイルは、いつの時代も絶えず変化しています。最近では、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のパンデミックも、その変化に大きな影響を及ぼしました。

 私自身の個人的なところでは、活動自粛による運動不足が気になり、夕方のランニングや寝る前のストレッチ運動などを始めてみました。一方で、アルコール飲料の消費も増えたような気がします。

 さて、数カ月後あるいは数年後、これらの行動は私の習慣として定着しているでしょうか。アメリカのある研究(脚注1・記事末参照)では、私たちの日常の行動の約45%は、ほぼ毎日同じ場所で繰り返されているとされています。

 いったん習慣化されれば、深く考えることなく、その行動をほぼ自動的に実行するようになります。むしろ「自動化するしかない」という見方が正しいのかもしれません。脳の処理容量には限界があり、目の前の出来事をいちいち詳細に検討して答えを出している余裕がないためです。いずれにしても私の場合、運動習慣が定着すれば、健康状態の維持・向上にはよさそうです。
 
提供123RF

 当然ながらマーケターにとっては、自社商品が消費者の習慣に根付けば、心強いです。顧客自身で、ほぼ自動的に繰り返し更新して消費してくれるわけですから、ある意味、サブスクリプションみたいなものですよね(ちょっと強引か・・・) 。

 そういうわけで、以下に、どのようにして消費者に習慣が形成・維持されるのか、そして、それに対してマーケターとしてどのようなアクションが取れるのかを検討していきましょう。
 

習慣の形成と維持のメカニズムを知ろう


 ある目的のために考えながら行っていた行動(目的志向的行動)が、習慣的行動として定着していく過程は、しばしば3つの要素からなるループで説明されます(脚注2・記事末参照)。
 
 特定の一連の行動を引き起こす「きっかけ(Cue)」、それによって生じる「ルーティン(Routine)」、そして、そのルーティン行動によってもたらされる「報酬(Reward)」の3要素です。このループが何度も、何度も繰り返されることで、習慣として定着するというわけです。



 たとえば、私はちょっと暇になるとついついスマートフォンに手を伸ばしてしまいますが、これは退屈を感じることが「きっかけ」となって生じる無意識のルーティン行動です。それはおそらくスマートフォンから得られるさまざまな情報が報酬となって強化されていったのだと考えられます。 

 コロナ禍で話題になった手洗い習慣では、たとえば「外から帰ったこと」や「食事が始まること」をきっかけに、洗面所に行って手を洗うというルーティン行動が生じます。その結果、親や先生に褒められたり、さっぱり清潔になった気になったり、あるいは直後に美味しいおやつを食べたりすることが報酬になるでしょう。

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