マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #02

記憶を味方に。ブランド価値を高める秘訣は「脳の仕組み」の理解にある

前回の記事:
習慣の魔力。どうすれば、人は繰り返し買うようになるのか
 2020年10月開催「マーケティングアジェンダ2020」のキーノートに登壇する、ニールセンシンガポールでコンシューマー・ニューロサイエンスを専門にする辻本悟史氏が「マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか」をテーマに脳科学や行動経済学の分野から人間の行動と、その背景に迫ります。
 

やっぱりブランドが大事


 前回のコラムでは、習慣をテーマにお話ししました。その際、個人的にランニングとストレッチを始めたことをお伝えしました。

 早いもので、それからもう一か月・・・。

 それらの行動は、きれいさっぱり、まったく定着しませんでした。残ったのは、日々のアルコール摂取の増加分だけ。新しい習慣を身に着けるのは、なかなか簡単ではないですね。

 そんなわけで、行動の習慣化による繰り返し購入の魅力は認めつつも、一方で、根本的にはブランド力を高めることが大事だということも再確認しました。

 今回のコラムでは、ブランド・エクイティをテーマに人間理解を深めたいと思います。そのためにブランド知識がどのように記憶に貯蔵されているのか、そしてそれに対してどのようなアクションがとれるのかを検討していきます。
 

多彩な長期記憶を理解しよう


 消費者が持っているブランド知識は、当然ながら脳のどこかに何らかの方法で保存されているはず。なので、まず人間の記憶について簡単に概観してみましょう。

 私たち人間の長期記憶には、実はさまざまな種類があります。具体的には、下の図のように、大きく陳述記憶と非陳述記憶に大別され、それぞれに下位区分がなされています。



 陳述記憶とは、その内容を言葉で説明することが出来るもので、顕在記憶とも呼ばれます。一方、非陳述記憶は、言葉で説明することが出来ない記憶で、潜在記憶と呼ばれることもあります。

 普段あまり意識されませんが、前回のテーマの「習慣」や、自転車の乗り方などの「スキル」も、実は非陳述記憶の一種なのです。いったん身に着くと自動的に体が動きますが、だからと言って、骨格や筋肉が勝手に自転車を操縦するわけではありません。脳内にある記憶が、無意識のうちに呼び出されて利用されているのです。



 一方、日常の会話で「記憶」というと、主に陳述記憶の方になるでしょう。図を見ると、こちらもその下に、エピソード記憶と意味記憶に分類されています。前者は、「いつ」「どこで」など5W1Hであらわされる個人の出来事や経験の記憶、後者は言葉の意味や知識・概念などです。 

 なぜこんなややこしい分類があるのか。実はこれ、単に便宜的なものではなく、脳内の記憶システムが本当にそう分かれているのです。それぞれ、別々の脳部位やシステムで処理されています。
 
 ですので、たとえば、脳のある特定の部位(側頭葉の一部)を損傷すると、自分の過去の出来事や思い出は覚えているのに、単語、物品、人物などの意味理解だけに障害が起きたりします。

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