マーケティングは、どこまで人間を理解できるのか #07

誰しもが避けられない「老い」を、マーケティングはどう捉えるべきか

前回の記事:
行動が先で、言語化は後。マーケターが見過ごしがちな事実
 

顧客の年齢層は、STPを考えるひとつの要素


 STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)といえば、マーケティングのイロハのイというところでしょうか。その是非やどこまで細分化すべきかなど、議論の余地は大いにあるにせよ、みなさんも市場の分類にもとづいて大なり小なり自分たちの顧客層を絞り込んでアプローチしていると思います。

 そのなかでも、顧客の年齢層はSTPを考えるうえで主要な要素のひとつと考えられています。商材やカテゴリーによって自ずと限定される場合はもちろん、それ以外でも対象市場の人口動態やそれぞれのブランドのマーケティング戦略、さらには特定のキャンペーンの目的などによって、標的とする顧客の年齢層は(少なくとも、ある程度は)決まっているでしょう。

 ここでよく受ける相談のなかに、「自分たちの対象とする特定の年齢層に合わせて、商品・パッケージの開発やコミュニケーションを効果的にチューニングしたい」というものがあります。

 今回のコラムでは、この問いに対して、筆者の関わる文脈ではどう考えられるか、特にシニア層の例に焦点を当てつつ、紹介したいと思います。


 

コホート効果と加齢変化


 まず、この問題には大きく2つの異なる論点が含まれていることに留意しなければなりません。

 ひとつ目はコホート(同年に生まれた集団)としての視点、つまり、実年齢そのものよりも、いつ頃生まれたか(出生年)に基づくものです。同じくらいの時期に生まれた人たちは、教育や社会経済的イベント、自然災害、その他さまざまなライフイベントを同じような年齢で同じように経験しています。この共有事象を軸にアプローチしようとする考え方です。

 よく「○○世代」という名前を付けられるたぐいのものです。たとえば、ベタな例で言えば、今の60代以降の人にとって前回の東京五輪やビートルズ来日などの記憶は、私自身がその年齢になったときに感じることとは比べ物にならないほど大きなものでしょう。

 以前のコラムでご紹介した通り、エピソード記憶として定着している自分自身の経験を刺激して、「自分ごと」として捉えてもらうことはとても有効です。そのため、その世代特有の背景の分析はとても重要だと思います。



 ただし、それぞれの世代の特徴を定義づけてまとめる作業は、筆者のようなバックグラウンドを持つ人間がとやかく言うまでもなく、それが得意な人がたくさんいると思うので、そちらに譲りたいと思います。

 それに対して、2つ目の視点は、それまでの経験に関わらず、年齢を重ねるにつれてあらわれる身体機能や認知機能の変化です。「老い」は、今のところどんな人にも(ほぼ)間違いなく訪れます。それに伴い、いつ頃に生まれたとしても、同じくらいの年齢になると、ある程度共通した特徴を有します。

 そのなかでも、このシリーズのテーマである人間の脳や認知機能の加齢変化について、もう少し掘り下げていきましょう。

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