マーケティングで社会課題を解決できるか #05

リクルートで「ふたりの妊活」を考えながら見えてきた、PR活動で大切なこと

前回の記事:
リクルート「男性の妊活」への挑戦、誰かを悪者にしないプロモーション戦略

PRについて考える「きっかけ」


 私はリクルートで「Seem(シーム)」というサービスの事業責任者を務めています。Seemはスマートフォンアプリと専用の顕微鏡レンズを使って、精子の濃度と運動率を測定できるサービスです。サービスを開始してから3年以上が経ちますが、事業は順調に成長を続けています。
 
スマートフォンで簡単に精子のセルフチェックができる「Seem」

 「男性の妊活」というニッチな領域で成長を続けられている理由のひとつに世の中の流れの変化があります。2016年11月にSeemをリリースした当時は、男性不妊や男性の妊活がメディアに取り上げられることは、ほとんどありませんでした。

 しかし、2018年の1月~3月にかけて不妊治療中の夫婦を描いたドラマが放送され、ドラマ放送中の2月にはNHK「クローズアップ現代+」で男性不妊が特集されました。また、同じ年の7月にはNHKスペシャルで1時間に渡って精子のことが取り上げられました。その後も新聞や雑誌で男性不妊や男性の妊活をテーマにした記事が多く書かれ、Seemを取材してもらう機会も増えてきました。

 Seemとして男性不妊に関する情報を一方的に発信していても、興味を持ってくれる人は一握りです。しかし、メディアを通じて第三者の視点でSeemを紹介してもらうことで、不妊や妊活というテーマに縁がなかった多くの人にも興味をもってもらうことができました。メディアの力を改めて感じるとともに、PRをきちんと理解して取り組まないと貴重な機会を逃してしまうという危機感を抱き、PRについて考え始めました。
 

PRの目的は世の中の意識を変えること


 PRに関する本を読んだり、PRの専門家に話を聞いたりしている中で個人的になんとなく掴めてきたのは、PRは「世の中の目をこちらに向けてもらうこと」だということです。

 広告はこちらの伝えたいことを一方的に発信するので、すでに目を向けている人=ニーズのある人に興味をもってもらうには効率的です。PRではメディア等を通して世の中ごととして情報を発信してもらうので、興味を持ってない人にも情報が届き、目を向けてもらうことができます。

 ただし、目を向けてもらっただけでは目的は達成できておらず、その後は世の中の意識を変え、行動も変えてもらわなければなりません。PRの成功事例ではいかに注目を集めたか、話題になったかという企画や仕掛けのうまさが紹介されることが多い印象です。しかし話題性ばかりを狙う仕掛けはその瞬間は盛り上がりますが、世の中の意識を変えるまでには至りません。瞬間的な露出を取るためのPR施策は広告と比較して効率が良いかも知れませんが、世の中との関係は築けないのです。

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