日本の広告最新事例を世界の潮流から読み解く #05

コロナ危機で生まれた“新しい日常”。最初に描くのは映画でも小説でも、演劇でもなく「広告」だ

前回の記事:
数々の広告賞を受賞した、高崎市「絶メシリスト」から見える“差別化を超えた地平”
 私は長年、多くの広告コミュニケーションの海外事例を紹介し、その分析に努めていますが、この連載では、いつもとはある意味では逆に、まず日本の話題作に目を向けて解説し、その上でその意図や施策の在り方が、海外のどんな潮流と関連しているのかを考えていこうと思います。

 実際、日本で話題になった事例の中には、海外のトレンドの延長線上にあるものが、少なからず存在しています。今回は新型コロナウイルスの感染拡大による自粛生活を見事に切り取った最新広告事例を緊急でご紹介します!
 

「リアルで会わない」新しい日常を描いた、ポカリの挑戦


 皆さんは、もうご覧になったでしょうか?

 4月10日から公開されているポカリスエットの新テレビCMとWeb動画「ポカリNEO合唱」。公式チャネルの解説によれば、内容は次の通りです。

 「今はみんなで会えないけれど、歌は歌える。新ヒロインの汐谷友希さんと、97名の中高生たちが、自分の場所で、自分らしく、ひとつの歌を合唱しました。2020年春、“渇きを力に変えてゆく。”」

 テレビCMは、4月17日からオンエア開始。YouTubeで公開されている60秒バージョンは4月20日現在で、すでに240万回以上視聴されています。
 
ポカリスエットCM|「ポカリNEO合唱」篇 60秒

 我われの日常は、今年3月から、今までとはまったく別物になっています。特に4月に入ってからは、政府からリモートワークを求められ、オンライン打合せやオンライン飲み会がごく普通の風景となりました。

 人は、それぞれがそれぞれのHomeに居たままで、それでもConnectしようとさまざまな試みを行っています。

 この“新しい日常”をいち早く描き、共感を巻き起こし、商品・ブランドの価値向上にも結び付けている事例が、ポカリスエット「NEO合唱」です。

 ここ数年、ポカリスエットは10代をターゲットにした施策として「ガチダンス選手権」を繰り広げて来ました(参考:ポカリスエットが「ダンス選手権」で成功。ターゲットの好きなものに寄り添うことから始めよう )。

 そして今年、予定されていたのが「合唱」です。しかし、新型コロナウィルスの蔓延により、リアルに集まっての合唱は出来なくなってしまいました。そこで、97人の中高生がそれぞれ自撮りをした映像を、素晴らしい編集で1本の動画にまとめあげたのです。

 動画には、“新しい日常”の象徴的なシーンでもある、2分割画面や4分割画面が効果的に挿入されています。ラストは、数十に分割された画面から、ポカリスエットのロゴに移り変わって終わります。

 キャッチフレーズは、「渇きを力に変えてゆく。」。

 健康飲料である商品の機能をきちんと捉えながらも、「みんなに会えない」「自由に移動できない」といった今の渇きを、未来の力に変えてゆこうというメッセージと捉えることも可能です。
 
ポカリスエットweb movie|「ポカリNEO合唱 ドキュメンタリー完全版」篇

 また、聴こえてくる歌では「今しかない」「一瞬を生きている」「今だ、今だ、今だ、今なんだ」「歌おう、僕らの歌」という形で、イマという新しい日常への想いが歌われています。そのことで、10代の(いや、多くの世代の)リアルでビビッドな共感を得て、ブランド価値向上につなげていると思います。

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