アフターコロナ:マーケティングは、どう変わるのか? #特別編

マスクの開店時販売を中止した大手ドラッグストア「サツドラ」英断の背景

 新型コロナウイルスの感染拡大で、マスクの品薄が大きな社会問題となっている。そうした中で、北海道の大手ドラッグストアチェーン「サツドラ」が開店時のマスク販売を中止し、注目を集めた。

なぜ開店時の販売を止めたのか、そして、その決断を下すまでにどのような議論があったのか。サツドラホールディングス 代表取締役社長の富山浩樹氏と、ドラッグストアのビジネスに詳しい店舗のICT活用研究所 代表の郡司昇氏に、オンライン取材で話を聞いた。(※写真は、過去の取材時のものを利用)
 

現場からの悲鳴。鳴り止まない問い合わせ電話


——なぜマスクの開店時の販売を中止したのか、その背景からお聞かせいただけますか。

富山
 まずは、開店前の行列です。マスクを購入するお客さまが殺到して開店前から駐車場は満車になり、渋滞も起きて近隣の方にご迷惑をおかけしていました。それから、開店時に並ぶことができるお客さまだけしか、マスクを手に入れることができないという状況もありました。

さらに店頭で、マスクが欲しいというお客さまから当社の従業員に対して厳しいお言葉を投げかけられるケースが増えていたのも事実。いつマスクが入荷するのかという電話も鳴りっぱなしで・・・。そうした点を総合的に考えて、販売時間をずらすことにしたんです。    
  
富山 浩樹
サツドラホールディングス 代表取締役社長
(※写真は、別の取材時のものを利用)
1976年札幌生まれ。札幌の大学を卒業後、日用品卸商社に入社。福島や東京での勤務を経て2007年サッポロドラッグストアーに入社。2015年5月に社長就任。2016年8月にはサツドラホールディングスを設立し代表取締役社長に就任。「リテール×マーケティング」のコンセプトのもと、チェーンストアの経営や共通ポイントカード「EZOCA」の運営を軸とした次世代エコシステムの構築に挑戦中。2017年6月にはAIやPOS開発のIT企業2社もグループ化し、テクノロジー分野にも参入。コロナ騒動が始まってから、noteでも情報発信(詳細は、こちら

郡司 私も自宅近くのドラッグストアで、店員さんが電話の受話器を持ちながら、店内を駆け回っているのを見ました。全部、マスクの問い合わせみたいで電話を切っても、また、すぐにかかってくるという状況。あれは、たまらないだろうなって・・・。サツドラさんの全店で朝のオープン時のマスク販売を止めるというアイデアは、どのように出てきたのでしょうか。   
    
郡司 昇
店舗のICT活用研究所 代表
(※写真は、別の取材時のものを利用)
1999年 ランド設立。セイジョー(現ココカラファイン)とFC契約。 2007年セイジョー入社。調剤事業部課長、営業管理課長兼ココカラファインHD調剤担当で業務効率化・コスト削減・アライアンス等担当。2013年ココカラファインOEC社長就任。2016年ココカラファイン統合マーケティング部長兼任。 2018年4月~現職。各連載の他、Webサイトでも情報発信(詳細はこちら

富山 マスクが品薄になり始めた頃から、営業マネージャーと議論していたのですが、社内でも対策を講じることにネガティブな意見も出たりして、結局ずるずると時間だけが過ぎていた時期があったんです。

でも、郡司さんと「(郡司氏執筆の)マスクの先着順販売を否定した記事」をきっかけに、やり取りさせてもらったことがヒントになったんです。欲しいお客さま全員にマスクが行き渡らない以上、会社としての考えを発信することが大事だ、と。

それから同じ頃、あるドラッグストアの店主が「マスクの開店時の販売を止めます」という張り紙をして、Twitter上で話題になっているのを見たんです。そうした状況から、サツドラとして対策を打つことを決めました。
 

チャット上で議論して、スピーディーに決断


郡司 開店時のマスク販売を中止することを決めるまでには、どのような議論があったのでしょうか。

富山 今回の意思決定のプロセスで良かったのが、私と社員がチャットルームで活発に議論できたことです。私自身も現場をかけ回り、ヒアリングして考えたアイデアを、現場のブロックマネージャーに率直に投げかけたんです。

「会社名もしくは社長名で、開店時の販売を止めると宣言して、会社として責任をとる。同時にコールセンターを立ち上げて、店の電話を本部で受ける」と。

すると、ブロックマネージャーからは賛否両論が飛んできて、「現状の対応では早朝に並べる方しか買えず、不平等を生んでいるから良いと思う」という声もあれば、「良くも悪くも、現在の方法を確立してトラブルを減らしてきたので変えたくない」といった声があがりました。

そうしたチャット上でのやり取りが活発になって、懸念点を出しきったあとに営業マネージャーにも議論に加わってもらい、「こういう張り紙を貼って、問い合わせにはこういう答え方をする、販売時はこうする」といった対策を2案に絞り込み、それをブロックマネージャーが自分の担当するお店に合わせて選択できるようにしたんです。

というのも、北海道は広いですから報道に対する温度差がありますし、マスクへのニーズが強いエリアと、穏やかなエリアに分かれていたんです。それで早速、次の日に数人のブロックマネージャーが一部の店舗で、開店時の販売を中止しました。
 


その直後から、お客さまが告知ポスターを撮影してTwitterに投稿し始めて話題になり、ネットメディアの記事になるほどの反響をいただきました。そして、その反応もおおむね良好でした。

そうした、お客さまからの反応をブロックマネージャーとのチャットルームでシェアして課題を挙げていくと、その課題も、もともと想定していた範囲で、お客さまにしっかり説明すれば理解してもらえるレベルであることが分かりました。むしろ時間を変えることのメリットが大きいという声を素早く回収できましたね。

そして、その2日後には、全店でマスクの開店時販売を中止。会社として正式に決めたため、Twitterなどでも公式に発信していったという流れです。
 
https://twitter.com/satsu_dora/status/1247405742329458689

振り返ってみると、今回の意思決定で良かったのは、チャット上でリアルタイムに議論して、ある程度のテンプレートをつくり、その中でブロックマネージャーが主体性を持って実施して、その改善点や課題点が共有されてスピーディーに意思決定できたことだと感じています。

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