リテールから考える「マーケティングの本質論」 #07

AIは本当に人の仕事を奪うのか? その時、人はどのように力を発揮するのか【コメ兵 藤原義昭】

前回の記事:
「可処分時間」の奪い合いが、小売業でも起きている【コメ兵 藤原義昭】

リユース業界でも仕事がAIに置き換わり始める?


 「君たちの仕事は、10年後には無くなっているかもしれない」

 これは私が毎年、新卒社員研修で入社したての社員に最初にする話です。オックスフォードのマイケル・A・オズボーン准教授とカール・ベネディクト・フレイ博士の有名な論文『The Future of Employment: How susceptible are jobs to computerisation(2013)』では、2030年までの間に米国では労働人口の47%がAIに置き換わると言っています。

 その論文が発表されてからすでに6年が経とうとしていますが、本当になくなってしまうのでしょうか?

 コメ兵が属するリユース業界の多くの企業は、業種では小売業に含まれます。少し特殊なのはビジネスモデルが「BtoC」ではなく、「CtoBtoC」であり、商品の調達は主に個人のお客さまからの買取になります。買取は個人のお客さまがお持ちの商品を査定させていただき、代金をお支払いするというサービス業や金融業に近いサービスを行い、そして、その商品をメンテナンスを行った後に販売するという小売業がくっついたような業界です。

 コメ兵は現在、「リユーステック」と称して、リユースに関わるテクノロジー活用を進めています。最近ではブランドバッグの真贋を見分けるためにAIを使用するシステムを構築して、特定ブランドであればコピー品の判定を97%程度の正解率で出すことが可能なところまで到達しています。
 
AIを使って真贋判定を実際に行っている様子
  リユース業界(特にブランド取り扱う事業者)は新品と異なり、中古品は商品調達のコントロールが非常に難しい業界です。お客さまから買取をどれだけさせていただけるかが事業の生命線で「たくさん買取する」が「たくさん売る」よりもとても重要です。

 その買取を支えるのが鑑定士たちです。ブランド品を買取する鑑定士に求められるスキルは大きく分けて3つあり、1つ目は優れた接客力。2つ目は商品の人気と状態、世の中で幾らぐらいの価格で取引されるのか、お店で幾らぐらいで販売できるかという相場観、そして3つ目はコピー品を見分ける真贋の判定力です。

 ブランド品のコピーを見抜くというのは、当社が何十年も積み重ねた研究と経験に培われた上に成り立っている会社としてのケイパビリティでもあります。当然、この鑑定力が会社の中での昇進や昇格に影響してきますし、その人の社内でのプレゼンスを高めるためにも日々鍛錬をしているということになります。

 鑑定士がお客さまから実際に買取させていただく中でどうしてもコピー品が紛れてしまうことはあります。ただし、その確率は年間140万点を買取させていただく中で約0.03%ですので、計算していただくと、いかに驚異的な数字かがわかるかと思います。

 しかし、前述した真贋判定のAIでは、ほんの10秒もあればコピー品の判定ができてしまいます。これが意味することは、コピー品の判定能力はテクノロジーに代替されてしまうということです。さらに、スキルの2つ目である商品の相場も近い将来データの蓄積とAIにとって変わる日はそれほど遠い未来の話でもなくなってきています。そして商品価格の相場は、当社が保有している店舗での販売結果データと世界規模の取引データから近い将来、予測も含めて出すことが可能になってくると考えています。

 もちろん、このAIはリアルの接点の場で培われた鑑定士のコピー品を見抜く勘所のようなところを基礎につくられていることは言うまでもありません(したがって現段階では、他社が真似をしたとしても、同じような形はできても精度を出すことはほぼ不可能でしょう)。

 しかし、ここで重要なのは、それまで個人や企業が未来永劫続くだろうと思って一生懸命に培ってきたことが180度ガラッと変わることです。
 

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