ニュースと体験から読み解くリテール未来像 #10

九州発「トライアル」の売り場は、デジタルサイネージのブレイクスルーを予感させる

前回の記事:
トライアルのスマートレジカートに学ぶ、店舗が「客単価」を上げるためのヒント
 前編に続き、大手ディスカウントストア トライアルのデジタルサイネージ活用と売場改革について紹介します。

 2019年4月にリニューアルオープンした旗艦店「メガセンター トライアル 新宮店(福岡県糟屋郡新宮町)」の視察時(5月31日)に、同社 西川晋二取締役副会長 グループCIOにご案内いただきました。
 

旗艦店のスマートストア化


 まずは「メガセンター トライアル 新宮店」の概要です。24時間営業で、2階建て3400坪の広大な売場に10万SKUの品揃えという大型店です。
 
メガセンター トライアル 新宮店

 バイパス道路を走行していると、デジタルサイネージ付きの大きな看板が目に入ります。このサイズの屋外デジタルサイネージはあまり見かけないので、見落とす心配はありませんでした。



 この新宮店は、売上が徐々に前年割れしてきたため、1・2階の役割の明確化と、2階売場の回遊性向上を目的に2019年4月にリニューアルしました。

 その際、前編で紹介した「アイランドシティ店」と同様のスマートレジカート(Windows10ベースの第1世代)200台と、新開発のカメラ用途+αのAndroid端末1500台、売価の変更が多い生鮮食品中心に7000枚の電子プライスカードを導入しました。

 店内には、デジタルサイネージがアイランドシティ店よりも多く設置されています。アイランドシティ店も一般的な店舗よりも多かったのですが、こちらは店頭からプロモーションコーナー、エンド陳列、産直野菜、冷凍食品の中置平台上部まで、ありとあらゆるところにデジタルサイネージが設置されて、情報を大量に浴びさせているという印象を受けました。
 
店舗入口 (写真は、いずれも筆者撮影)
 

デジタルサイネージの強み「強制視認性」をどう活かす?


 デジタルサイネージの特徴は、目に飛び込んでくるメディアという「強制視認性」にあります。さまざまな店舗でもっと活用されても良さそうですが、意外と小売店内への設置が進んでいません。その理由は、メーカー視点の商品広告を流すだけのメディアに留まっているからです。

 店舗でよく見かけるのは、テレビCMを流用して、長い時間同じコンテンツが流れ続ける(そして誰も見ない)という、メーカーからの広告料だけが設置目的になっているケースです。そういった小売側の意思が込められていないデジタルサイネージを見るたびに、わずかながらデジタルサイネージ会社のお手伝いもしている私は悲しくなります。

 さてトライアルは、そうした小売店舗におけるデジタルサイネージ活用をブレイクスルーさせる存在かもしれません。デジタルサイネージで流す映像は、産地直送野菜コーナーなど場所に合わせた専用コンテンツと店内一斉配信コンテンツを効果的に組み合わせているです。


 
野菜、魚コーナーでもデジタルサイネージが活躍中。

 そして、その一斉配信のコンテンツがひと工夫効いています。私の視察日(5/31)は梅雨特集(前日までは、バーベキュー特集)でした。

 季節に合わせてコンテンツを細やかに変更するのはもちろん、2階への誘導も兼ねているのがポイントです。バーベキュー特集であるならば、1階の食材やアルコール飲料訴求はもちろん、2階のアウトドア用品を意識してもらうことが可能です。梅雨特集であれば「まな板除菌」が食品売場で流れることで非計画購買を促しそうです。





 西川CIOにお伺いしたところ、いずれもメーカーからもらった単品訴求のコンテンツをトライアル社内で加工して使用しているということでした。

 次の映像で言うと、イラスト内動画はメーカーから提供を受けたテレビCMを編集したもので、周囲の画像やイラストはトライアル社内制作です。メーカーのテレビCMをそのまま流すだけでは見てもらえないため加工し、メーカーの協賛費をいただいてマネタイズを図るわけです。



 なお、常時ではありませんが、1500台の店内カメラと連動したコンテンツを出し分けて放映する実験に取り組むことがあるそうです。例えば、ビールコーナーにカートを押しているお客さまが近づくとケース販売の割安感を訴求、一方でカゴを手に持っているお客さまには単品商品を訴求するといった具合です。

 サイネージとカメラの連動に関しては、一部では視聴率(数秒注視)測定もしています。これは広告費を出すメーカーからすると効果の「見える化」につながります。

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