ビジネスにイノベーションを起こす「思考法」 #26

「若いという理由だけで、人を安くみない」ヒットプロデューサー鈴木竜馬の人脈術

前回の記事:
最高益に沸く音楽業界。サブスク浸透でCDの自社流通から撤退、デジタル人材に投資【ワーナーミュージック 鈴木竜馬】
 RIP SLYME、BONNIE PINK、きゃりーぱみゅぱみゅ、ゲスの極み乙女、高橋優、WANIMAなどのアーティストを世に送り出し、最近は若い世代から絶大な支持を集め、紅白歌合戦にも出場したあいみょんのプロデュースも手掛けているワーナーミュージック・ジャパン執行役員の鈴木竜馬氏。前編・中編に続き、仕事の哲学について、鈴木氏の20年来の知人である田岡氏が話を聞いた。
 

人脈づくりでは、努力をしてきた


田岡  これまで話を伺っていて、プロダクションの社長からあいみょんのプロデュースについて相談されたり、音楽制作に当たって最適なスタッフを選ぶことができたり、竜馬さんの仕事は人とのネットワークで成立しているように感じます。

鈴木  はい。人脈づくりは、本当に努力してきたつもりです。今はもうできなくなりましたが、20代の頃は絶対に名刺交換だけの関係で終わらせないように、お会いした方と必ず食事に行くようなことを心がけていました。
鈴木竜馬
ワーナーミュージック・ジャパン 執行役員/CENTRO 代表取締役
1969年東京生まれ。東海大学文学部卒業。1993年にソニークリエイティブプロダクツに入社、96年に退社後、世界各国を旅する。99年にワーナーミュージック・ジャパンに入社。2010年にunBORDEのレーベルヘッド、14年に執行役員に。17年10月に設立された360度ビジネスの新会社CENTROの代表取締役に(ワーナーミュージック・ジャパン執行役員兼任)。

田岡  相手の記憶に残ることを意識されていたのですか。

鈴木  そうです。実は飲み屋も同じで、一度行って気に入ったら2、3回連続して行くようにしていました。3回続けて行けば常連になるので、その後は半年間空けたとしても覚えていてくれるんです(笑)。

最近は、自分で新人アーティストの発掘の時間がとれないこともあって、これまで信頼関係を築いてきた人やスタッフから声をかけてもらって見極めることが多いですね。

それと、アーティストの脇にいるマネージャーや、番組制作やライブ制作などの現場で動いているスタッフに対しても相手の年齢に関係なく常にリスペクトを持っています。アーテイストに近ければ近いほどアーティスト以上の動きを求められたりもする場所なので。そこに対する気持ちは、忘れてはいけないなと思っています。綺麗ごとのようですが、大切な部分だと思います。

田岡  信頼するスタッフは、どのように見極めているのですか。
田岡敬氏
エトヴォス 取締役 COO(最高執行責任者)
リクルート、ポケモン 法務部長(Pokemon USA, Inc. SVP)、マッキンゼー、ナチュラルローソン 執行役員、IMJ 常務執行役員、JIMOS(化粧品通販会社)代表取締役社長を経て、ニトリホールディングス 上席執行役員。2019年1月21日より、エトヴォス 取締役 COO。

鈴木  「unBORDE」を設立した当初は、いつも社内で怒られていて社会性はないけれどセンスがある奴など、でたらめな奴ばかり集めていました(笑)。エッジが効いたことを実現するためには、ホームランしか狙わないような人が必要だと考えたからです。

一方で、CENTROはレーベルではなく、マネジメントやマーチャンダイジング、ライブ事業などを手掛けるため、社員の半分以上は、社外から専門職をヘッドハンティングしました。それも若返りを狙って20代から30代前半に声をかけました。

田岡  それはまた、振り切っていますね。

鈴木  これまでは、メジャーレーベルとして、新人アーティストの噂を聞いてライブを観に行ったり、YouTubeで確認したりして見つけてきていましたが、タレントマネジメントをするにはそれでは遅いんです。若いスタッフを起用することで、まだ誰も注目していないような素材を見つけてくることを期待してします。

 最近は、CENTRO 所属のchelmicoという女性2人組が日本コカ・コーラ「爽健美茶」のテレビCMに起用されたり、SASUKEという15歳の男の子の手がけた曲が日本生命「車いすバスケットボール応援ムービー」に活用されたりしています。

Sokenbicha No Rap

「The Beats of Game」篇

田岡  設立1年半で成果を出されているのは、さすがです。他に人脈のネットワークを広げるために、心がけていることはありますか。

鈴木  若いという理由だけで、人を安く見ることは、絶対にしないようにしています。若いスタッフであっても、後で大事な財産になることがたくさんあります。実際、若手ADだった人が広告会社に転職して、10年後に大きなタイアップの話を持ってきてくれたようなことがありました。

田岡  それは、すごくわかります。この年になると年上の人と仕事をする機会より年下の人とする方が多いので、年上に強く年下には弱いと生きた仕事のネットワークが広がりませんよね。

鈴木  そうなんですよ。特に今はスピードが速い時代だからこそ、若い人とのコミュニケーションを大事にするべきだと思っています。

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