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「元書店員マーケター」オススメの一冊 #06

名著『ザ・ゴール』は、マーケティングに役立つ視点を提供してくれる一冊【書評・逸見 光次郎】

前回の記事:
マーケターが正しく「ファクト(真の課題)」を把握するために【書評・逸見 光次郎】

何度も読み返している名著、製造業だけがテーマではない


 最近、「マーケティング」と「事業」は、同義語ではないかと考えている。そう考えるきっかけを与えてくれたのがゴールドラット博士が執筆した書籍『ザ・ゴール』だ。2000年に邦訳が出て以来、そのシリーズを含めて何度も読み返している。連載第3回でも、『ザ・ゴール』の考えの基になった「トヨタ生産方式」について触れた。
 
『ザ・ゴール』シリーズ エリヤフ・ゴールドラット 著 ダイヤモンド社
 『ザ・ゴール』は、物語風ビジネス書である。主人公のアレックスが工場長を務める工場が採算性の悪さが原因で、本社から3カ月後の閉鎖を指示されるシーンから始まる。アレックスは、改善策を必死に模索する中で、経理課長のルーや資材マネージャーのステーシー、製造課長のボブから思わぬ気付きを得たり、忙しさのあまり悪くなる夫婦仲の中で子どもからいくつものことを学んだりする。TOC(Theory Of Constraints:制約条件に注目して改善していく方法論)を丁寧に分かりやすく物語の中で解説している。

 主人公のアレックスは、改善策を模索する中で、大学時代の恩師であるジョナに偶然出会い、いくつかの問いを出される。そのやり取りを要約すると、次のようになる。

 「工場にロボットを導入して生産性は上がったのか?」「売上は上がったのか?」「在庫は増えたのか、それとも減ったのか?」
「生産性は目標(ゴール)に向かって会社を近づける行為そのものだ。そのためにスループット、在庫、業務費用の3つの指標を見なければならない」

 この本では、主に工場内の生産性について語られているため、TOCは主に製造業の話だと思われているが、ゴールドラット博士は、繰り返し「TOCがもっとも成果を出すのは、小売業のはずだ」と語っていた。

 私自身、博士が存命中に来日した機会に直接、教えを受けることができた。やはり博士は、製造業よりもマーケティングや働き方、組織の在り方など企業全体、そして社会とのつながりからの視点で語られることが多かった。

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