第1回から3回の速報記事では、カンヌライオンズ2025の傾向の1つ目として「難題に広告的機知で一矢!」を、2つ目として「“それってユーモアなの?”なヒューモア事例」を、そして3つ目として「“TellingからDoingへ”の加速と、そのオーセンティシティ」を挙げました。

 今年は筆者からすると受賞作が豊作で、多くのヒントが見て取れたので、例年より多く、4つ目についても少し触れてみたいと思います。
 
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カンヌ2025受賞作4つ目の傾向は「優れたコンテンツへの回帰」

 

カンヌライオンズから受賞者たちへのお祝いメッセージ

 2025年に感じた受賞作の4つ目の傾向は、「優れたコンテンツへの回帰」です。僕はカンヌライオンズの顕著な潮流として、「『作品としてのクリエイティビティ』から『仕掛けのクリエイティビティ』へ」と長きにわたって説いてきました。特に目を見張るほどのコンテンツが無くても、仕掛けで成果を挙げる事例が多い、という話です。

 しかし今年2025年のエンターテインメント部門やクラフト関連部門の授賞式を見ていて強く感じたのは、「仕掛けも大事だけれども、優れたコンテンツのパワーはやっぱり凄いや!」ということでした。

 特にそう感じた事例を一つ、ご紹介しましょう。それは、現代自動車による13分の短編映画「NIGHT FISHING(夜釣り)」で、エンターテインメント部門のグランプリを受賞しました。
 

Hyundai「NIGHT FISHING」ケースフィルム

 現在ネット上では、事例ビデオしか見られないようなのですが、カンヌライオンズ贈賞式では13分の短編映画自体の一部が上映されました。初見で一部だけだったにも関わらず、そのコンテンツとしての魅力は明らかで、この傾向を強く感じたわけです。

 このコンテンツは、現代自動車の主力電気自動車「IONIQ」がMZ世代(ミレニアル&Z世代)へのリーチを狙って制作したもの。それ以前は、主な購買層は40代で、MZ世代のIONIQの認知度はわずか1.4%。MZ世代に訴求するために、一般的な広告ではなく、13分の短編映画をつくることを選択しました。7台の車載カメラだけを使って撮影する手法を用いて、クルマを“撮影監督”に見立てる企画でした。

 現代自動車はこのコンテンツを広告ではなくエンターテインメントとして位置づけ、本格的な映画制作に取り組むことにしました。実際、コンテンツ内にはIONIQのロゴも、車体の全体像も映っていません。

 完成した短編映画は、複数の著名な映画祭で評価され、多くのメディアに取り上げられ、137億ドルのPR価値を生み、それまでのキャンペーンに比べてインパクトは767%に高まったと言います。
 

カンヌライオンズ最終日=金曜日の夕方には、テラスステージに軽食が