広報・PR

ジャングリア沖縄のPR再構築を考えるー沖縄とともに「大きな物語」を共創する

前回の記事:
7月5日の“予言”に学ぶ ー 人を動かすのは“情報”ではなく"気配"。企業広報に求められる〈空気の設計〉
  2025年7月25日、沖縄本島北部・やんばるに開業した「ジャングリア沖縄」。700億円という巨額投資で話題を集めたテーマパークだが、SNSでは「恐竜とやんばるがミスマッチ」「待ち時間が長すぎる」など賛否両論が渦巻いている。華やかな招待客の投稿と一般客の不満が分かれ、「沖縄らしさの欠如」という根本的な問題も見えてきた。

 マーケティング業界で注目される、株式会社刀の森岡毅氏の手法は確かに話題づくりには成功したかのように見えた。しかし、売上や効率を重視する「小さな物語」(ビジネス中心の発想)に偏りすぎてしまった。

 沖縄という特別な場所では、地域の自然や文化と一緒に育む「大きな物語」(心に響く物語づくり)こそが大切なのではないだろうか。

 ※注:今回、私はジャングリア現地に行ったわけではない(おそらく今後もしばらく行く予定はない)。あくまでSNSなどで見られる反応や議論などの「広報戦略(活動)の結果」を見て論説したにすぎない。自分が直接の“被害”に遭ったわけではない旨、ご理解いただきたい。
 

現状認識:開業PRが抱える構造的な課題


 森岡氏は、やんばる(注1)の自然を活かした「沖縄旅行を最高にするためのテーマパーク」を設計したが、PRでは「マーケティングの神様」としてのユニバーサル・スタジオ・ジャパンの成功体験や700億円調達の話が前面に出すぎた感がある。これは業界関係者には響くものの、恐竜の世界や沖縄の開放感を求める一般のお客さんにとっては現実に引き戻される要素となってしまった。まるでアイドル歌手のデビューに際してプロデューサーばかりが目立つような状況だ。

 ※注1:やんばるとは、「山々が連なり、森が広がる地域」という意味をもち、沖縄本島北部一帯を指す

 私がこれまで携わった地域活性化プロジェクトでも同様の問題を何度も目にしてきた。特に印象深いのは、ある西日本の自治体の観光PRで、首長が経済効果ばかりを強調した結果、本来の地域の魅力が霞んでしまったケースだ。

 記者会見で「投資額○○億円」「雇用創出○○人」という数字が躍る一方で、「なぜそこに行きたいと思うのか」という感情的な動機が全く伝わらなかった。結果として、メディアは数字を報じるものの、地元の人も観光に訪れる人も、生活者(地元の人も、観光に訪れる人も)の心には何も響かなかった。 ※一部エピソードは再構築しているジャングリアも同じ轍を踏みかけているのではないか。

 さらに深刻なのは、沖縄という土地の特徴への理解不足ではないかと想像している。森岡氏は沖縄の観光市場や地元企業との協業を進めたが、琉球文化の具体的な取り込みがまだ不十分だった。
 

ジャングリア沖縄 公式サイトより

 例えば、エイサーの太鼓踊りを恐竜パレードに組み込み、地元団体が「やんばるの守護恐竜」を演じるショーで、ミスマッチ感を解消し、沖縄らしさを際立たせる。マジムン伝説を恐竜に重ねたARゲームで、民話を学びながら冒険を提供する。シークヮーサーや紅型デザインのグッズやフード・ドリンクを地元職人と開発し、インバウンドの購買意欲を喚起する……。

 これらは地域共創を深め、「沖縄のジャングリア」を印象づけることにつながる。入場料から判断すると、当然こうしたスケールの大きな共創企画が多数あるものと想像していた。現状、こうした企画が限定的なのであれば、さらに検討していく価値はある。

 SNSでは「やんばると恐竜は合わない」との批判が目立つ。料金体系(国内在住者:6,930円/大人1人、非国内在住者:8,800円/大人1人)の説明不足も、不信感を増幅させてしまった。ディズニーランドが「夢の国」という大きな物語で地域を超えた人気を得るのに対し、ジャングリアは沖縄本来の良さを活かした物語を描けていない。

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