ミレニアル世代の旗手たち 徳力基彦インタビュー企画 #01

インターネットビジネスは性善説?「統計」で余計なコストが掛からない【BANK 光本勇介】

与信のあり方には、変革の余地がある

徳力 インターネットもボトムアップでユーザーがつながり合う仕組みのため、本質的には性善説だと思います。CASHのサービスの考え方も、光本さんのように学生時代からインターネットに触れて育ってきた世代だからこそ生まれたのでしょうか。

光本 うーん、そうでもないと思いますけど。ただ、インターネットの時代だからこそ、僕たちの実験が拡散されて、多くの人に認知されたのはあるでしょうね。

徳力 小さなスケールでのスタートでも、大きく拡大する可能性があるということですか。

光本 はい、そうですね。僕がやっている実験は、「オフィスグリコ」なんですよ。オフィスグリコは商品の棚が置かれている横に貯金箱があるだけなので、お金を入れなくても商品が取れてしまいます。でも、お金を入れてくれるだろうと信じることで成り立っている。感覚的には、それと同じです。



徳力 でも通常の企業であれば、なかなかそういったサービスは生み出せませんよね。コストはかけないので論理的なビジネス判断としては正しいかもしれませんが、上司を説得するのが大変そうです。

光本 仮に同じ事業を大企業の新規事業としてやろうとしても、僕も上司を説得する自信はないです(笑)。何しろ、やってみないと分からないですからね。逆に言えば、だからこそ、与信のあり方に変革できる部分があるのではないかとも思いました。

 性善説に基づくビジネスは、言い方を変えると「統計ビジネス」だと思います。悲しいかな、「全員がいい人」ということはありえませんが、悪い人はたったの数%かもしれない。その数%の悪い人を除くためのコストを圧倒的大半の人にも負担させているのが現状です。数%の人によって被る損害をコストとして見れば、そもそも人を疑うためにコストをかける必要はない。同じことが当てはまるビジネスは、実はたくさんあるのではないかと思います。

徳力 先日、TEDの有名プレゼンターであるハンス・ロスリング氏が書いた『ファクトフルネス』という本を読んだのですが、その内容が光本さんのお話と近いと感じました。ロスリング氏によると、メディアは暗いニュースを取り上げがちなので、その影響もあって世界はどんどん悪い方向に向かっていると思われがちだけれど、統計で見れば世界の貧困率や乳幼児の死亡率は下がり、世界は良くなっているとあります。

 ただし、現代は価値観として、すべてを完璧に安全にするために、例えばビルにセキュリティを入れて、お得意さんの与信でさえチェックするようになりがちですよね。

光本 そうですね。僕らも実験をしている感覚で、立てた仮説がまだまだ実証できているとは言えません。ただ実証できる可能性はありますし、手応えも感じられています。今はこれをやりきるフェーズですが、やりきったあとに実現できることがあまりにも多いため、そこにワクワクしていますね。
続きの記事:
「ワーストケースを定義すれば、起業やチャレンジは恐くない」BANK光本勇介氏が語るマーケティング論
他の連載記事:
ミレニアル世代の旗手たち 徳力基彦インタビュー企画 の記事一覧
  • 前のページ
  • 1
  • 2

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録