ミレニアル世代の旗手たち 徳力基彦インタビュー企画 #02

「ワーストケースを定義すれば、起業やチャレンジは恐くない」BANK光本勇介氏が語るマーケティング論

前回の記事:
インターネットビジネスは性善説?「統計」で余計なコストが掛からない【BANK 光本勇介】
 目の前のアイテムが一瞬で現金に変わるアプリ「CASH」で話題を集めたBANK 代表取締役兼CEOの光本勇介氏に、アジャイルメディアネットワークの徳力基彦氏がインタビューする企画の後編です。広告代理店に勤めた経験を持つ光本氏が、どのようにマーケティングについて考えているのかを聞きました。
 

ユーザーがCASHをシェアした理由

徳力 光本さんは以前、広告代理店に勤めておられましたよね。日本はマス広告がとても強い国なので、今でもネット企業ですらマス広告でビジネスを伸ばすことがベースになっている印象もあります。一方、インターネットは、広告予算がない企業でも、ユーザーのクチコミで話題が広がることがあるのが醍醐味だとも思っています。

 CASHはリリース初日にクチコミによって大きく拡散したことからも、光本さんはどちらかと言うとインターネットのスキームでビジネスを考えている人だと思いますが、大企業の担当者の中には広告だけに頼り、「広告が効かなくなった」と嘆いている人もまだいるようです。しかし今の時代は製品がすばらしければ、広告に頼らなくてもCASHのように話題になったり、予算がなくても映画『カメラを止めるな!』のように大ヒットしたりすることも不可能ではありません。

 時代が変わり、広告以外にもたくさんの手段がある中で、企業のマーケターはどのようにマインドチェンジしていくべきだと思われますか。
徳力 基彦氏
アジャイルメディア・ネットワーク / 取締役CMO
NTTやIT系コンサルティングファーム等を経て、2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。「アンバサダーを重視するアプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。2009年2月に代表取締役社長に就任し、2014年3月より現職。

光本 今パッと思いついたことをお話させていただくと、世の中の消費者の価値観が変化しているにもかかわらず、多くの人は消費者を理解する努力をしていないのではないかと思います。リサーチ結果を見て、「今の若い子はこうだよね」と知ったつもりになっているんです。現代はソーシャルメディアを通じた情報拡散やコミュニケーションを通じて様々なものが成立していますが、実のところソーシャルメディアを利用していない企業の担当者も多いですよね。
光本 勇介氏
バンク 代表取締役兼CEO
10歳から18歳までデンマークとイギリスで過ごす。2004年青山学院大学卒業後、オグルヴィ・アンド・メイザージャパン入社。2008年ブラケット(現ストアーズ・ドット・ジェーピー)を設立し、代表取締役兼CEO就任。2013年ブラケットをスタートトゥデイ(現 ZOZO)に売却。2016年MBOを実施し、ブラケット取締役会長に就任。2017年バンクを設立し、代表取締役兼CEO就任。2017年「CASH」をリリース、その後DMM.comへ全株式を売却。2018年MBOを実施。

徳力 徐々に増え始めていると感じますが、会社で禁止されているケースもありますからね。

光本 そうですよね。ただ、消費者を理解するためには、個人としてもっと積極的に利用すべきだと思います。

徳力 CASHが話題になったとき、多くのユーザーがソーシャルメディア上にアプリ画面をシェアしましたよね。初めから、そうなるように意識して設計していたのでしょうか。

光本 いえいえ、思い通りにシェアしてもらえるほど、消費者を動かすのは簡単ではないので、シェアしてもらうことを前提に考えていたわけではありません。

 その代わりに、CASHというアプリをどのような言葉で表現するかは、すごく意識しました。CASHは言ってしまえば、ただの「買取アプリ」です。しかし、表現の上では買取アプリという言葉は一切使わず、「目の前のものが瞬間的に現金に変わるアプリ」という表現を使い続けました。目の前のものが瞬間的に現金に変わると言われると、新しさや魔法のような感覚を覚えると思います。それが話題になった一つの要因なのではないでしょうか。

 また、体験の設計にもこだわりました。CASHは査定を申し込む際に、カメラで現金に変えるアイテムを撮影するようになっているのですが、リリース当初は、入力してもらったブランド名とカテゴリー、コンディションによって金額を決めているため、写真は査定に関係していません。つまり、本来写真を撮影させる必要はないのですが、そうすることによって目の前のものが現金化しているという体験をさせることが重要だと考えたんです。

徳力 どうすればお客さんに体験を楽しんでもらえるかにフォーカスした結果、体験したあとに、それをシェアするという行為がたまたま多く生まれたということなのですね。

光本 その通りです。

徳力 現在BANKでは、事業のマーケティングをどのように動かしておられるのでしょうか。そもそも広告は使われていますか。

光本 広告は一応使っていますが、お金はあまりかけていません。それよりも、初めてリリースするサービスに機能を盛り込みすぎず、リリース後に消費者のフィードバックを受けて改善していくことを意識しています。そうすれば、絶対に世の中が求めているサービスができる。言い換えれば、それがマーケティングなのかもしれませんね。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録