よなよなエールのマーケターが迫る!ファンベースの最前線 #03

他人が認知していない「高級」は、プレミアムブランドとして価値がない

前回の記事:
レクサスに学ぶ「ファン育成」 鍵は人による“リアルな関係性”にあった
 ヤッホーブルーイング マーケテイング・ディレクターの稲垣聡氏が、自社と同様にファンベースを重視する企業のキーパーソンや、ファンベース研究の最前線にいる有識者を訪ね、急速に注目が高まるファンベースの本質や、真の効果につながる取り組み方について考えます。今回は、レクサスのブランド・マネジメントを長らくリードし、高級車をはじめとするラグジュアリーブランドや耐久消費財のマーケティングに詳しいA.T. Marketing Solutionの高田敦史氏へのインタビュー後編です。
 

超高級ブランドのファンとプレミアムブランドのファンの価値観の違い

稲垣 私の会社が製造販売している「よなよなエール」は、手に入りやすいものの、ある程度の希少性と個性的な味わいがあり、少しプレミアムな価格帯のビールです。だからこそ、熱狂的なファンが生まれやすく、「もう一人の自分になれる」という特徴的なベネフィットを、顧客がより感じることができるのではと推測しています。

 高田さんが詳しい、高額商品・プレミアムブランドのファンは、いわゆる普通のブランドのファンとどんな違いがあると思われますか?

高田 「よなよなエール」のベネフィットは、「自分自身を満足させる」という“自分目線”に基づいていますよね。しかし、レクサスのようなプレミアムブランドの場合は、いわゆる普通のブランドに比べて“他人目線”の価値が強くなる傾向があると思います。
高田 敦史(たかだあつし)氏
A.T. Marketing Solution 代表
元トヨタ自動車、レクサスブランドマネジメント部長。1985年にトヨタ自動車入社後、宣伝部、商品企画部、海外駐在(タイ、シンガポール)、トヨタマーケティングジャパンMarketing Director 等を経て、2012年からグローバル規模でレクサスのブランディングを主導。2016年7月に退社し、A.T. Marketing Solutionを設立。

 つまり他人が認知していない「プレミアム」はブランドとしての価値がないということです。

 たとえば、「リシャールミル(スイスの超高級時計ブランド)」のファンであっても、誰もいない無人島に着けていく人はいないと思うんです。クルマや時計といったジャンルのブランド、特にプレミアムなブランドは、他人からどう見られるか、いわばステータスシンボル性の有無がより重要になります。

 私がタイでレクサスのマーケティングに携わっていた時、ターゲット市場が狭いにも関わらず、広く新聞などのマス媒体に広告を出稿していました。それは、世の中に「高級車としてのレクサス」を認知させる必要があったからです。現地のホテルに行って、ドアマンがベンツのドアを開けるのは、ベンツが高級車だと知っているからに他なりません。

 プレミアムブランドは、顧客以外の「世間が持つイメージ」がブランドをつくり上げる側面があるのです。これは、ビールやワインのような「自分が美味しいものを飲んで満足したい」というニーズが強い、嗜好品ブランドとは異なるポイントだと思います。

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