ミレニアル世代の旗手たち 徳力基彦インタビュー企画 #03

大手企業も「弱み」を見せるべき? けんすうが語るミレニアル世代から支持される条件

前回の記事:
「ワーストケースを定義すれば、起業やチャレンジは恐くない」BANK光本勇介氏が語るマーケティング論
 ミレニアル世代を代表するビジネスパーソンにアジャイルメディアネットワークの徳力基彦氏がインタビューし、現代のマーケティング担当者が知っておくべき消費者の行動やその捉え方を探ります。

 第2回は、生活情報サイト「nanapi」の創業者で、現在はマンガのコミュニティサービスを展開するアルの代表取締役社長 “けんすう”こと古川健介氏が登場。IT企業の経営に加えて、リクルートやKDDIなどの大企業での勤務経験も持つけんすう氏にミレニアル世代をターゲットにする際に持つべき視点について聞きました。
 
アル 代表取締役社長 古川健介(けんすう)氏(右)と、アジャイルメディアネットワーク CMO徳力基彦氏(左)。
 

19歳で社長を経験した後、新卒でサラリーマンになった理由

 
徳力  けんすうさんにお話を聞くに当たって、まずは私なりに問題意識を整理させていただきます。これまでのデジタルマーケティングは、極端に言えば、コンマ数%のコンバージョンさえあれば、残りの99%のユーザーからは嫌われても問題ないという世界観の中で展開されてきたように思います。

さらに最近は、ネットの広告枠にお金をかけずにPayPayの「100億円あげちゃうキャンペーン」やZOZO前澤さんの「100万円を100人にプレゼント」のように、直接ユーザーにキャッシュを渡すような方法も出てきています。しかしこれらは、どちらかと言うと、金銭の「価値」や「量」を重視していたソフトバンクの孫さんたちネット第一世代のスタイルのように感じています。

一方で、若い世代に本当に響くのは、例えばSHOWROOMのような応援できるサービスだったり、キングコングの西野亮廣さんが運営するオンラインサロンのように、体験の機会を提供したり、言わばつながりの「質」や「自己承認欲求」を満たさせたりするものではないかという仮説があります。

これらは私の持論ですが、若い世代にどうすれば企業のサービスや製品が受け入れられるのか、本日はけんすうさんのご意見を伺いたいと思っています。
 

徳力 基彦氏
アジャイルメディア・ネットワーク / 取締役CMO
NTTやIT系コンサルティングファーム等を経て、2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。「アンバサダーを重視するアプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。2009年2月に代表取締役社長に就任し、2014年3月より現職。

けんすう  分かりました、よろしくお願いします。

徳力  まずはご経歴からですが、そもそも、けんすうさんがインターネットに初めて触れたのは、いつ頃ですか。

けんすう  15歳の時(1996年)にNECが提供していた「パソコン通信」に触れたのが最初ですね。その頃から、現在のアル CTOでnanapiの共同創業者である和田(修一)と一緒にホームページをつくっていました。

大学生の頃は、大学受験の情報コミュニティ「ミルクカフェ」を立ち上げたほか、「したらば掲示板」というレンタル掲示板を運営する会社の社長も務めて、その後1年ほどで掲示板事業をライブドアに売却し、そのまま同社でアルバイトをしてから新卒でリクルートに入社しました。
 

古川 健介氏
アル / 代表取締役社長
1981年生まれ。リクルートを経て、nanapiの創業。2014年にKDDIグループ入りしたのち、現在はマンガサービスを手がけるアル代表取締役社長。

徳力  一度、社長を務めたにもかかわらず、サラリーマンになろうと思ったのは、なぜですか。

けんすう  ライブドアは、エンジニアのレベルが非常に高いんですよ。それを目の当たりにして、自分はエンジニアの世界で勝負できないと思いました。そのまま就職せずにだらだら生きようかとも思ったのですが、2ちゃんねるの創設者であるひろゆき(西村博之)さんに「このままいくと、おいらみたいになるよ」と言われ、「それは、まずい」と真剣に考えて就職することにしたんです。

徳力  (笑)。そしてリクルートを経て、nanapiを起業されたわけですね。

けんすう  はい。リクルートを3年で退社して、2009年にnanapiを創業して、2014年にKDDIに売却しました。そこから2018年まで4年間、KDDIグループに在籍していました。
 

KDDIやリクルートとインターネット企業と違いとは


徳力  リクルートやKDDIは企業規模が大きく、けんすうさんが創業したnanapiなどのベンチャー企業とは、カルチャーが全く異なると思いますが、どのような違いがありましたか。

けんすう  リクルートは、マンガの『キングダム』の世界に似ていますよね。今は違うのかもしれませんが、当時は猛者どもが「俺は、天下を取るぞ」と方々で叫んでいる感じで、実はあんまりロジックがなかったりするんですよ。天下をとった後に「あれっ、俺どうするんだっけ」的な(笑)。

 一方で、KDDIの遺伝子は、インフラですよね。きちんと計画通りに事業を進めて、お客さまにもきちんとしたサービスを提供し続けることが大事だと考えています。両社とも“インターネット企業”では、ないですよね。



徳力  今のけんすうさんの話でいう“インターネット企業”と、その他の会社は何が違うのでしょうか。

けんすう  一番の違いは、リクルートもKDDIも「お客さまは、お客さま」と考えていることだと思います。メルカリに代表されるようなインターネット企業は、「お客さまは、仲間」という意識に近いのではないでしょうか。僕の中でも、社員とユーザーの区別は、あまりないんですよ。

徳力  なるほど。けんすうさんがこれまで手がけてきたサービスも、ユーザーと一緒につくってきたという感覚なのですね。

けんすう  はい。なので、現在のアルのビジネスでも、書いたワイヤーフレームをTwitterやFacebookに投稿してユーザーと話をしながらつくりました。僕にとっては、このやり方がしっくりくるし、上司に話すのもユーザーに話すのも同じ感覚なんですよ。

徳力  ある意味、生活のハウツー情報をユーザーに書いてもらっていたnanapiも同じつくり方ですよね。
 
nanapi
けんすう  そうですね。例えば「カルピスのつくり方」などのように、一見すると誰でもが知っている情報も、実は知らない人が多いんです。でも、ごくごく基本的な情報のコンテンツをつくるのは、ユーザーにとっては正直つまらない。なので、そこを書いてくれる人には、きちんとお金を払おうという意識でした。

徳力  nanapiは、目の付け所がすごく良かったんですよね。当時のインターネットメディアはニュース系ばかりで、本当にみんなが欲しているハウツー系の情報は、まだまだ足りていませんでした。その点nanapiは、みんなが求めている情報をみんなの力でつくるメディアでした。

ただし、お金を払って、ユーザーにコンテンツをつくってもらうというスキームだけが他社のニュース系メディアにコピーされてしまって、結果的に質の低いキュレーションサイトが大量に出てしまったことにつながってしまったように思います。

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