マーケターズ・ロード 湖池屋 佐藤章 #02

キリンから転職した理由と、「熱狂的に愛されるもの」をつくる極意 湖池屋 佐藤章社長

チームづくりの妙から熱狂的に愛される商品が生まれる


 クラスタリングにおいては、デザイナーや映画監督といった、社外のクリエイターから刺激・影響を受けることも多いですね。

 「KOIKEYA PRIDE POTATO」は、auの三太郎CMをつくっている篠原誠さん(篠原誠事務所)と、「スコーン」は石井原さん(ネアンデルタール)と、「じゃがいも心地」は石岡怜子さん(石岡怜子デザインオフィス)と一緒につくりました。

 ポップ、スタイリッシュ、現代的、本格的…組むクリエイターによって、実に多様なキャラクターが生まれます。例えば、石井原さんとは、キリン時代にも炭酸飲料の「KIRIN FREE」「METS」を一緒につくったのですが、彼のパーソナリティやセンスを活かそうと思ったら、やっぱり商品はポップな雰囲気になっていくわけです。
 
スコーン

 そうやって、つくり手の強力な個性を軸にクラスタリングすることもあります。広告クリエイターだけでなく、レストランのシェフと一緒に味づくりをすることもあります。

 社内でつくることに固執していると、どうしても“金太郎飴”のような、一本調子のものしか生まれなくなってしまいますから。
 

メンバーの「好き」という気持ちから全てが始まる


 社外の人材との関わり方は、昔も今も変わりませんが、社内メンバーの集め方は、キリン時代と湖池屋時代で異なることの一つかもしれません。

 クラスタが大事とはいえ、大手ビールメーカーとしては、どうしてもマスに支持されるもの、10人中8~9人が「絶対に飲みたい」と思うようなものをつくる必要がありました。一方のスナック菓子は、商品によってターゲットや喫食シーンがかなり細分化されますから、一つひとつの商品の支持者は少人数でもいいのです。

 朝食代わりなのか、3時のおやつなのか、酒のおつまみなのか、ターゲットとシーン・用途をぐっと絞り込み、その特徴を商品にぎゅっと凝縮して、ターゲットに届けることが重要です。

 そのためには、その商品を実際に食べていそうな社員を部門横断で集めて、チームを編成することが効果的だと感じています。最近は、美大の卒業生を社内デザイナーとして新卒採用しました。これまでにないチームづくりをすることで、新規性と個性が際立った商品を生み出すことができるのです。

 一方、チームづくりにおいても昔と今とで変わらないことはあります。それは、メンバーが持っている「好き」という気持ちです。

 「清涼飲料が大好き」「アルコールが大好き」「お菓子が大好き」――そうした気持ちなくして、見様見真似で商品づくりをしようとしてもうまくいきません。

 その人がこれまでの成長過程で、どんな経験をしてきたか。そこに、ものづくりの本質があるはずです。こういう価値観を持つ人が、こういう思いを持って、こんな工夫をしてつくった商品――そこに必然性があるものが、お客さまから支持される商品と言えると思います。

 モノが溢れている時代、お客さまはその商品が「自分に関係があるものかどうか」「自分にとって大事なものかどうか」を瞬時に見抜いてしまう。嘘のない、信じられる商品だと思ってもらえないと、なかなか選んではもらえません。

※第3回 キリン時代に体得した、業界を超えて通じる「掟(おきて)」に続く
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キリン時代に体得した、業界を超えて通じる「掟(おきて)」 湖池屋 佐藤章社長
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