音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #07

音部さん、上司から「マーケティングだけを学んでも、いいマーケターになれない」と言われました。本当ですか?

前回の記事:
マーケターには、企画を通すための「人間力」が必要ですか?【音部大輔】

「いいマーケター」をどのように定義する?


【質問】

 上司から「マーケティングだけを学んでも、いいマーケターになれない」と言われました。本当でしょうか?
 
 そもそも「いいマーケター」の定義が明確でなければ、いいマーケターになれるかどうかは、わかりません。「いいマーケター」とは、どのようなプロフェッショナルのことを指すのでしょう。このような漠然とした、難しい質問に対しては、比喩を使って考えてみると示唆を得られることがあります。 

 例えば、「いい野球選手」とは、どのようなプレイヤーでしょうか。少し考えるだけで、一種類ではなさそうだ、ということに気付きます。私は野球をしませんが、バッターとピッチャー、キャッチャーでは、それぞれ求められるスキルが違いそうです。 

 マーケターも同じことが言えると思います。得意とする領域や役割によって、「いいマーケター」の定義はいくつもあるでしょう。普遍的な「いい野球選手」や「いいサッカー選手」を定義しにくいように、普遍的な「いいマーケター」は定義しにくいものです。 

 とはいえ、「いい野球選手」に共通している要素はありそうですし、評価項目も設定できそうです。身体能力が高い、動体視力が優れている、故障しにくい、チームワークを大事にできる、自身の成長と鍛錬に余念がない、などは共通した項目のように思われます。 

 そのうえで、打撃の力や打率の安定性、投球の精度や速度、走塁の速度や盗塁の技術など具体的な項目は、多岐に渡りそうです。全項目が満点というプレイヤーは、ほとんどいないだろうとも想像できます。 

 マーケターにとっては、論理的に考える力、共感する力、コミュニケーションする力などは、アスリートの身体能力などと同様の意味を持つかもしれません。そのうえで、消費者理解の技術やアイデア創出、クリエイティビティ、表現の評価やマネジメントの能力、デジタル施策関連の知識、マーケティング・テクノロジーの理解、戦略思考の洗練、組織構築の知見など、具体的な項目は多岐に渡るでしょう。担っている職務の階層によっても異なることが想像されます。若いうちは責任範囲が明確なことが多いですが、階層が上がると成果と個人を直接的につなげにくいこともあります。組織構築などはその例のひとつでしょう。 

 ご質問の、「マーケティングだけやる」というのは、野球選手でいえば野球の試合だけやっているプレイヤーなのかもしれません。 

 野球の試合だけやっていても(野球をやらないよりは)相応に上手になれそうですが、プロフェッショナルとして効果と効率を考えるなら、「筋力トレーニング」や「バッティングのトレーニング」なども練習に取り入れているように思います。 

 マーケティングも同様です。よりよく市場創造するために、関連する諸項目について習熟することは、効果にも効率にも影響します。マーケティングだけでなく、心理学や数学、歴史や社会学などを知ることも役にたつでしょう。 

 実務的な分野では、財務や会計、技術や法規、営業や流通、製造や物流、人材育成や採用など、いわゆる4P(Product、Price、Place、Promotion)以外の諸項目についても理解している方が、強いマーケターになる可能性が高いものです。同時に、どこにどれだけの時間と労力を投下するのが自身の目指す姿に対して効率的なのか、工夫する価値はあるでしょう。闇雲に手を広げることが正解ではないかもしれません。 

 大きなテーマなので、皆さんからご質問があれば、継続的に議論を深めたいと思います。。

※今回の記事に関連して、「マーケターの類型」「それぞれに必要なトレーニング」「それぞれが得意な領域」など、音部さんへの質問がありましたら、こちらまでお気軽にご連絡ください。
 
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