ミレニアル世代の旗手たち 徳力基彦インタビュー企画 #06
「終身雇用の崩壊で、人は新しい場所を求めている」READYFOR 米良はるかCEO
ミレニアル世代を代表するビジネスパーソンにブロガーの徳力基彦氏がインタビューして、現代のマーケティング担当者が知っておくべき消費者行動やその捉え方を探ります。第3回は、クラウドファンディング「READYFOR(レディフォー)」を展開するREADYFOR 代表取締役CEOの米良はるか氏が登場。前編に続き、後編では、米良氏がクラウドファンディングサービスを社会から理解してもらうための取り組みを通じて、企業がミレニアル世代にコミュニケーションをとる際のポイントを考えます。
クラウドファンディングで支援を得るための方法
徳力 クラウドファンディングは、インターネット上のプラットフォームを介して出資を募るという仕組みです。それが成功するためには、プロジェクト実行者がソーシャルメディアで積み上げてきた信頼や評価も大事になると思います。
少し意地悪な質問ですが、古い価値観の人がそうした仕組みを理解せずに、クラウドファンディングを単純に大勢の人から資金を集めることができるサービスだと理解していた場合、どのように「READYFOR」を説明しているのですか。
米良 いろいろな角度から説明しています。例えば、まだ誰も支援していないプロジェクトに1人目として支援するハードルは高く、1001人目での支援はしやすいです。なぜかというと、支援の数からプロジェクトに支援される価値があり、その人も信頼できる人だということが見えてくるからです。そこで、10人目くらいまでは自分の周囲の人から支援者を集めてはどうでしょう、と提案しています。
米良はるか氏
代表取締役CEO(最高経営責任者)1987年生まれ。2010年慶応義塾大学経済学部卒業、12年同大学院メディアデザイン研究科修了。大学院時代にスタンフォード大学に短期留学し、帰国後11年に日本初・国内最大級のクラウドファンディングサービス「READYFOR」を立ち上げ、2014年「READYFOR(レディーフォー)」として株式会社化、代表取締役CEO(最高経営責任者)に就任。
代表取締役CEO(最高経営責任者)1987年生まれ。2010年慶応義塾大学経済学部卒業、12年同大学院メディアデザイン研究科修了。大学院時代にスタンフォード大学に短期留学し、帰国後11年に日本初・国内最大級のクラウドファンディングサービス「READYFOR」を立ち上げ、2014年「READYFOR(レディーフォー)」として株式会社化、代表取締役CEO(最高経営責任者)に就任。
徳力 「READYFOR」の場合、例えば、地方在住で普段からソーシャルメディアに接していないユーザーもいますよね。そうした方にも、その説明で理解してもらえますか。
米良 なかには理解していただけない人もいます。
徳力 個人的には、そこに企業のマーケティングにとってのヒントがあると思っているんです。従来のマーケティングは、企業が広告を通して、言わばスピーカー的に一方的に情報を発信して、それを受けとった消費者の一部に商品・サービスを購入してもらおうという流れが中心だったと思います。企業側が強いですよね。
しかし、クラウドファンディングは、どちらかと言うと、プロジェクト実行者側がその想いと共に「助けてください」と訴えて、支援者側から手を差し伸べてもらうコミュニケーションになると思います。そこに意識の違いがあって、大企業が従来の価値観のままクラウドファンディングを利用しても上手くいかないように思います。
徳力基彦氏
ピースオブケイク noteプロデューサー/ブロガー
アジャイルメディア・ネットワーク アンバサダー/ブロガー
NTTやIT系コンサルティングファームなどを経て、2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。「アンバサダーを重視するアプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。2009年2月に代表取締役社長に就任し、2014年3月より現職。2019年6月末で取締役を退任、7月から現職。同月、ピースオブケイク noteプロデューサー/ブロガーにも就任。
ピースオブケイク noteプロデューサー/ブロガー
アジャイルメディア・ネットワーク アンバサダー/ブロガー
NTTやIT系コンサルティングファームなどを経て、2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。「アンバサダーを重視するアプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。2009年2月に代表取締役社長に就任し、2014年3月より現職。2019年6月末で取締役を退任、7月から現職。同月、ピースオブケイク noteプロデューサー/ブロガーにも就任。
米良 そこは応援という文脈が強いことを説明して、「こんな課題があって、その問題解決を一緒にしよう」というコミュニケーションを推奨しています。そうすると、支援した人から「こんなプロジェクトを始めてくれて、本当にありがとう」といったコメントが寄せられるんです。
例えば、コニカミノルタさんは、女性の月経(生理)がはじまる前の数日間(3~10日)から起こる心身の不調を起こす症状「月経前症候群(Premenstrual Syndrome)」の改善に向けたセルフモニタリングツールのクラウドファンディングを実施して、プロジェクトを成立させています。
一方で、「こんなイノベーティブな商品が生まれました!」とユーザーの期待を煽るようなコミュニケーションは、あまり勧めていません。というのも、期待値を下手に上げてしまうと、それを上回るものを提供することが難しく、持続的な支援にならないからです。
徳力 従来、大企業は、「うちの会社の高い技術力から生まれた完ぺきな商品を買ってください」というコミュニケーションに慣れていますよね。そこからすると、ある意味、クラウドファンディングは、弱みをさらしているように見えて、広報部門に怒られてしまいそうです。戸惑う担当者の方も多いのではないでしょうか。
米良 大企業でも新規事業や先進的な取り組みをされている柔軟な方がフロントに立たれる場合が多いので、そこまで戸惑いはないかもしれません。
徳力 そういう人でないと、そもそもプロジェクトをしないということですね。
米良 どちらかと言うと弱みというよりも、企業や商品が目指している世界を発信して、そこに共感してくれる人を味方につけて製品をつくっていくという発想です。
徳力 そこが、すごく面白いですよね。先日、マーケティングカンファレンスの「マーケティングアジェンダ」で元P&Gのジム・ステンゲルさんがブランドパーパスの大事さを講演していました。
ブランドパーパスは、ブランドの存在意義。まさに米良さんが言うように、ブランドとして目指している姿を発信していくことが重要なんですよね。
米良 そうです。まさに大事なのは、パーパスです。企業は、パーパスがあるからチャレンジしているわけです。その結果、参加した人がその企業に愛着を持つようになります。
徳力 どんな製品でも理想を目指して常に変化していくものなのだから、むしろ100%完璧な状態ではないのが当たり前ですよね。それなのに、企業はこれまで「現在の製品が完璧だから、いまこの瞬間に買ってください」と言っていた印象があります。