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「日本の家電があえてダサくなってしまう背景とは?」小説家 平野啓一郎とプロマーケター 富永朋信 対談

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小説家・平野啓一郎 プロマーケター・富永朋信 対談「3000万円の新聞広告で、慈善事業を紹介する企業はカッコいい?」
 『日蝕』、『マチネの終わりに』、『ある男』など、数多くの小説を世に送り出している芥川賞作家の平野啓一郎氏が新著『「カッコいい」とは何か』(講談社現代新書)を発表した。

 「カッコいい」の語源から事例、解釈まで幅広く取り上げた本書は、小説を除くと、平野氏がこの10年間で最も書きたかった内容だという。その平野氏に、カッコいい企業とは何か、プロマーケターの富永朋信氏が尋ねたインタビューの後編をお届けする。
 

「カッコいい」は、トップの存在感で決まる


富永 マーケティングの大事な活動のひとつに、ブランディングがあります。かつて私は、当時在籍していた西友のブランドパーソナリティを「カッコいい2枚目」ではなく「2.5枚目の番頭さん」と設定しました。

みんなのことを見守っているけれど、一歩引いていて無骨で不器用。でも信頼できる、といったブランドです。ときに企業は、あえてカッコよくないことを嘱望するケースもあると思いますが、平野さんは、どう感じますか?

平野 全てがカッコいいで満たされる必要はないと思います。人が抱えている問題や求めているものは多様なので、企業に対しても「癒されたい」「もっと身近に感じたい」と思うこともあるでしょう。

ただ、よくわからないのが、たとえば、日本の家電製品があえてダサいデザインにしている、としか思えないこと。プロダクトデザイナーの方に話を聞くと、もともとは、いいデザインだったんだけど、社内の調整を経てダサくなってしまうことが多い、と。

最近、ネット上で邦画の中国版ポスターがカッコいいと話題になっていたんですが、日本はマーケティングを経ると、ダサくなってしまうのではないかと思っています。
平野 啓一郎 氏
1975年愛知県蒲郡市生。北九州市出身。京都大学法学部卒。1999年在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。以後、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。2004年には、文化庁の「文化交流使」として一年間、パリに滞在。著書に、小説『マチネの終わりに』(渡辺淳一文学賞受賞)『ある男』(読売文学賞受賞)、エッセイ・対談集に『私とは何か 「個人」から「分人」へ』等がある。

富永 その背景には、2つの理由があると思っています。ひとつは、リファレンスポイント。人が何かを判断するときは、必ず参照点を置いて、それを基準に比較しながら評価していくということです。

企業も、競合企業、特に業界No.1から相対的に考えてしまうのです。それで、家電製品やポスターが似通ったものができて、ダサくなるというのは説明できると思います。

もうひとつは、組織の力学です。本来はブランドをつくるチームが、たった一人の理想的なユーザーをペルソナとして設定して、そこに向けて商品を提供して、支持する層が広がっていく流れを取るべきなのです。ただ実際は、製品設計などの段階でマス向けの論理が加わって、このボタンを付けないと、ペルソナとは別の層に売れなくなるなど、どんどんカッコ悪くなっていくんだと思います。

ちなみに、平野さんがカッコいいと思う企業は、どこですか?
富永 朋信 氏
日本コダック(現コダック)、日本コカ・コーラ、ソラーレホテルズアンドリゾーツ、西友、ドミノ・ピザ・ジャパン、イトーヨーカ堂などでマーケティング関連の職務を歴任。2019年7月よりPreferred Networks 執行役員CMO。著書に『デジタル時代の基礎知識『商品企画』 「インサイト」で多様化するニーズに届ける新しいルール』。

平野 最初に思い浮かぶのは、やはりアップルですよね。先ほどの話でも触れましたが、企業のトップの存在感が与える影響は、大きいと思います。

富永 他には、ありますか。

平野 ジャズの老舗レーベル「ブルーノート」もカッコいいですね。社長のドン・ウォズがインタビュー記事で、就任してからアルバムのクオリティコントロールを徹底した、と語っていました。たまたまジャズファンがブルーノートのレコードを手に取ったとき、ハズレだったらしばらくはジャズを聞かないし、下手をしたら一生聞かない可能性もある。だから、本当にいいものしか世に出さない、と。

こうした考え方は、純文学を出している出版社にも必要だと思います。たまたま手にとった僕の本が良くなかったら、その人は下手すると僕の本を一生読まないかもしれないし、少なくとも数年は読まないと思います。だから、1冊1冊のクオリティに徹底的にこだわるべきなんです。

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