PHOTO | kojinaka / 123RF
売れるモノにはワケがある。PR目線で読み解くヒットの構造 #01

あのゴディバのバレンタイン広告が成功した理由を、PR目線で分析してみた

Web時代に、あえてのマス広告が効いた

 さて、話をゴディバに戻します。

 最初に私がこの新聞広告のことを知ったのは、朝のテレビの情報番組だったと思います。そのときの感想はズバリ「ウマい!!」といった感じ。よく考えられたPRだと思いました。

 昨今、マーケティングやPRの世界では、メディアニュートラルのプランニングが主流かと思います。テレビCMや新聞広告といったマスメディアを軸とせず、目的に合わせて有効なメディアを組み合わせるという考えですが、いまどきはいくつかの理由でマスを避け、Web中心に考えることが多いかと思います。もちろん私もその一人です。

 まず大きな理由として「マスはお金がかかる」ということ。また、「オフラインの施策はKPIが読みづらい」「オフラインからオンラインへのつなぎ込みが難しく、離脱が多い」などが挙げられます。

 そんな中、このゴディバの広告はあえて新聞広告を打ち、それをフックにして見事にバズを起こしました。当然のことながら、この広告を担当したクリエイティブは、各キー局の朝、昼、夕方、夜、深夜といった時間帯のニュースや情報番組で取り上げられることを計算して企画したのだと思います。

 広告の費用対効果で考えた場合、日経のカラー一面広告はおそらく700~800万円程度。新聞だけで終わったら、とてもではありませんが費用対効果は低いと言わざるを得ません。しかし、この広告をフックとして各テレビ番組に取り上げられ、WebやSNSで賛否の議論が巻き起こったことを考えると、新聞一面広告の価格の何倍もの効果をあげたと推測でき、成功例であると言えるでしょう。
 

ゴディバのバレンタイン広告が成功した4つの要因

  この成功は、いくつかの要素が組み合わさったことで、実現したものと捉えています。

① あえての新聞広告
② 日本人女性のリアルな声を代弁
③ 逆張り
④ 企業としての姿勢、人格


 ①は前述したとおりです。Web中心のプランニングになりがちな昨今、あえて新聞を選択し、(おそらく)計算どおり各テレビ番組での大規模な露出を実現しました。

 ②は「共感」です。今の時代、これが最も重要な要素と言っていいでしょう。一言で「共感」と言っても、「チョコを贈る側の共感」と「チョコをもらう側の共感」という2通りの「共感」があるわけですが、今回の広告は前者にターゲットを絞っています。

 これがWeb上ではいわゆる“突っ込みどころ”となっている(「本命チョコなんてもらえない俺は、義理チョコもらえるだけでもありがたいんだぞ!」的な)のですが、特に会社の上司と部下というヒエラルキーにおいて、声高に「バレンタインデーなんてクソくらえ!」と言えない女性たちの気持ちを代弁したことは、成功の大きな要因だと思います。

 また、③について。通常、売上をアップしたいなら「本命チョコ」「義理チョコ」「友チョコ」に続く第4の「〇〇チョコ」を打ち出したり、単価アップを狙うのが当然です。しかし、あえて売上が落ちるかもしれない逆張りの広告を打つことで、この時期に競い合うメーカーの中で最も目立つことに成功しています。

 そして、最後の④。これは企業として今の時代を客観視した結果と言えるでしょう。ゴディバが日本に登場したのは1972年。私が小さい頃は、一般の人の手には届かないぐらいの高級チョコでした。それから45年以上が経ち、今では「ジョエル・ロブション」や「ジャンポール・エヴァン」「ピエール・マルコリーニ」といった海外で人気の有名パティスリーやショコラティエがつくったメーカー、ブランドが次々と日本に上陸。銀座、表参道から有名デパートの地下食品売り場まで、好立地に進出しています。

 一方でゴディバは、その立ち位置を当時よりもカジュアルなものに、悪く言えば中途半端な位置に置くこととなりました。そうした中、今回の広告を通じて、企業として、メーカーとしての姿勢を見せることで、新たなポジショニング(差別化)に成功したといえるのではないでしょうか。

 ゴールが売上アップということであれば、今回の施策の結果がどうだったかはわかりません。しかし、少なくとも企業としてのイメージはアップし、他メーカーとの差別化に成功し、今年のバレンタインデーにおける話題をさらったことは、紛れもない事実です。

 末端とはいえ同じ仕事に携わる者として、拍手を送り今後の良き事例としたいと思います。
 
続きの記事:
企業にも「人格」がある。TENGAとWiiの事例から考える【ラウツマ 松浦隆】
他の連載記事:
売れるモノにはワケがある。PR目線で読み解くヒットの構造 の記事一覧
  • 前のページ
  • 1
  • 2

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録