音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #08

「マーケティングはアートなのか、サイエンスなのか」という問いへの答え【音部で「壁打ち」】

前回の記事:
音部さん、上司から「マーケティングだけを学んでも、いいマーケターになれない」と言われました。本当ですか?

【質問】

マーケティングは、アートとサイエンスのどちらでしょうか。それとも、どちらも大事でしょうか。音部さんは、どう考えますか。

 「マーケティングは、アートか、サイエンスか」という問いがあります。皆さんは、どう考えますか? 時代を超えてよく問われる質問です。もちろん答えは、「両方」です。いかようにも答えられるので、マーケターが酒の肴に議論する話題としては好適です。「ひとそれぞれだね」と決着し、無駄な禍根を残しにくい点も素晴らしい。 

 いい機会なので、アートとサイエンスについて少し考えてみましょう。そもそも、アートとサイエンスはどのように比較されるべき概念なのか。 

 ジュリアン・バーンズという作家の『10 1/2章で書かれた世界の歴史』という書物の中に「アートは人の業、サイエンスは神の業」といった記述があったように記憶しています。 

 この記述に従えば、アートは人の手によるものを指す、ということだと理解できます。人がつくったものがアートであるなら、マーケティングに関わるあらゆる創造物はすべてアートです。広告もメディアプランもパッケージデザインもアートですし、マーケティング組織もマーケティング戦略もアートです。『孫子の兵法』は英語でArt of Warと訳されますが、これは戦争の芸術ではなく、戦争の仕方(兵法)がアートだと理解できます。 

 では、サイエンスが神の業とはどういうことでしょう。 

 科学の研究室に神が住まうことはなさそうですが、この記述は創造神が創造したものと理解できます。つまり、自然物や自然の諸法則は、人ではなく万物の創造主が創ったものということです。人の認知能力をもって、それらの仕組みや作用を明らかにするのが科学だと言えそうです(諸説あり)。サイエンスは創造的な活動であっても、直接的な創造ではないかもしれません。 

 超常現象は起きないという前提に立つのであれば、人も自然現象もそれら科学の諸法則から逸脱することはできません。つまり、アートは必ずサイエンスの支配下にあると言えそうです。 

 ちなみに、17世紀にヨーロッパで起こった科学革命以降は、多様な撹乱要因を人為的に取り除いた「実験」を通して、サイエンスの知識を実証的に体系化するようになりました。アートがサイエンスの発展を促すわけです。

 「アートは人の業、サイエンスは神の業」であるならば、自然の諸法則にもとづいた人間による(市場)創造であるマーケティングは、サイエンスにもとづくアートであるといえるでしょう。人の心の動きや行動様式も自然現象ですから、サイエンスの領域です。心理学や行動経済学の研究対象ですね。マーケティングとの親和性が高いのは分かりやすいことです。 

 サイエンスへの理解を深め、アートの技術を洗練させていきましょう。
 
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